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 湾条恵美(女子34番)は、一人黙々と歩いていた。
 目的地は、決まっていた。E=2に存在する、古木。


 時刻は午後5時をまわっていた。新たにB=6が禁止エリアとなったが、最早そんな場所には誰もいるまい。

 朝見由美(女子1番)は、無事だろうか。唐津洋介(男子8番)から、無事逃げ切れただろうか。
 そんなことを思いながら、壊れてしまった情報端末機を恨めしく見る。


  どうして、こんな時に。


 朝見に救ってもらったあの時。その衝撃で、壊れてしまった命綱。今まではリアルタイムでわかっていた死者。それ
がわからないというだけで、どうしてこんなにも歯痒いのだろうか。
失ってから気付く、大切なもの。それは、情報という名の命綱だったのだ。間もなく、探し続けている秋吉快斗(男子1
番)と別れてから12時間が経つ。成果は、まったくない。

 だが、気がついたのだ。それを打破する方法に。

 それは、砂田利子(女子8番)が持っていた、探知機。会場内にいる生徒の居場所がわかるという優れものだ。彼
女は、最期まで戦闘を拒んで、この忌々しい首輪を爆破させられて死んだ。だが、武器はまだ残っているだろう。どこ
にあるか、それはもう明白だ。


 間違いなく、それは奈木和之(男子23番)が所持している。


 奈木和之。普段から親しくしていた男子だ。
快斗とも親しくて、いつも一緒に遊んでいた。勿論そこには、砂田利哉(男子14番)や粕谷 司(男子7番)の姿もあ
った。本当にあの4人は仲がよくて、気がつけばあたしもその輪の中にいて。

 もう、あの頃には戻れない。

利哉の妹の利子は、そんな奈木のことが好きだった。だから最期を迎えるときはあの場所を選んだ。それがどのよう
な最期だったのか気になるが、知ってどうこうというわけでもない。
問題は、奈木自身もまだ生き残っているということだ。即ち、奈木が誰かを殺しているという事実。
奈木は見た目では全く戦意は見受けられなかったから、おそらく本人が望んだ殺人ではないのだろう。そうでなけれ
ば、そもそも利子の言うとおり、あの場所に留まり続ける意味がない。だが、本当に生き残る意思がないのだとした
ら、素直にその生存権を利子に譲るのが妥当ではないのか。いや……利子の性格を考えると、それはどうやらない
だろう。利子は奈木の要求を拒んで、死を受け入れたのかもしれない。
だいたい奈木の武器も知らないのだ。隠れ続けるということは、きっとハズレ武器だったからだろう。あたしも快斗も殺
傷力のある武器ではなかったから、当初は隠れ家を探していた。
あの古木は、かなり立派な天然の隠れ家だ。覗かない限り見つかることもない。だから、行った時点でまだ奈木が生
き残っている可能性も非常に高い。

 だが、何が起きるかわからないのがこのプログラムだ。
 急がなければならないだろう。

 問題は、右足首の捻挫だった。

 やはり、完治はしていなかった。
唐津の襲撃にあって逃げていたときはそんなに痛くは感じなかったのだが、いざ逃げ切ってからというものの、どうも
足が重たかった。歩くたびにチクリと痛んだ。意識しないようにしても、違和感は残る。
しかし、歩けないほどの重症かといわれたら、案外そうでもないのも事実だ。いや、また襲撃を受けたら確実に死ん
でしまうとは思うが。もう、あれだけ走れる体力も残ってはいない。



 とにかく、急がなければ。



 そう、思っていたときだ。



  タァン!!



 響いてきたのは、一発の銃声。
 方向は、間違いなく古木の方から。


  ……まさか。


 最悪の予感が、した。
 あたしは、痛む足を押さえつけて、先を急いだ。




  【残り8人】





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