一瞬、何が起こったのかわからなかった。 突然背後に現れた恵美。 それに対して、辻は隠し持っていた拳銃で彼女を撃った。 信じられない、そんな顔をしていた。 自分の胸元を、ぽっかりと空いてしまったその風穴を確認するように、恵美は視線を下へと向けた。 そして……そのまま、仰向けに倒れて。 茂みの向こうに、消えた。 「恵美?!」 数秒送れて、ようやく快斗は事態を把握した。 恵美が、撃たれた。その事実を。 急いで駆け寄ろうとした。 だが、その刹那。 「はぁっっ!!」 辻が、再度斬りかかってきたのだ。 より強く、より疾く。 「ぐぁっ!」 快斗は、反射的に真剣を構えた。あと少し反応が遅れていたら、きっと無残に斬り殺されていたに違いない。 まさに間一髪、そう言っても過言ではないだろう。 しかし、事態は最悪だ。こんな悠長に戦いをしているときではないのだ。 早く、一刻も早く恵美のところへ行かなければ。 だが。 「……言ったでしょう? あなたは今、私と戦うしかないの。邪魔はさせないわ」 重く冷たく、辻の声が頭の中を反芻する。 それが、快斗を余計に不安定にした。 「湾条さんを助けたいのなら、早く私を倒しなさい。ほら、早く。できるのなら早く私を殺せ!!」 くそ、この女は何を言っているんだ? 早く殺せ? それが出来るなら殺してるさ。だが、そんなことをしている場合じゃないんだ! 恵美の……早く恵美のもとへ!! ぐぉん! と力を込められて、快斗はあっさりと吹き飛ばされた。 為す術もなく、無様に尻餅をついてしまう。 「……秋吉君、さっさと本気を出しなさい。早く、私を満足させてちょうだい」 「……うるせぇよ」 「何?」 「さっさとそこをどけぇっ! じゃないと恵美が……恵美が死んじまう!!」 よろよろと、快斗は立ち上がった。そして、鋭い眼で辻を見据える。 だが、そんな快斗を、辻は……つまらなそうに侮蔑した。 「……そんなに湾条さんが、大事?」 「いいからどけぇっ! ぶち殺すぞテメェ!!」 「なるほどね。秋吉君を本気にさせるためには、湾条さんを目の前で殺したほうがいいのかしらね」 プツン。 はっきりと、自覚できるくらいに。 快斗は、何かが切れる音を聞いた。 「……っざけんじゃねぇぇっっ!!」 そして、次の瞬間。快斗は、動き出した。恐ろしいほどまでに疾く、恐ろしいほどまでに精確に。 振りかざした刃は、辻の眼前で、辻の持つ真剣によって弾き飛ばされた。だが、それでも快斗は次なる太刀、弐の 太刀を振りかざした。今度は右腕狙い。だがそれも、軽々と防がれてしまう。それでも、何度も何度も、快斗は太刀を 振るい続けた。その度に、金属音が辺りに鳴り響く。 「いいわよ……いいわよいいわよいいわよぉぉ!!」 辻は、軽快に刀を捌きながら、豪快に笑った。 「その調子よ秋吉君! 私はこういうのを望んでいたんだわ! 凄い……素晴らしすぎる、パーフェクトよ!!」 「ごちゃごちゃうるせぇぇっ!!」 何度も何度も、快斗は辻に斬りつけた。一撃一撃が、重たく振り下ろされるそれに対して、次第にそれを受け止める 力が弱まっていく。圧倒的な単純な力の差、そして、今までの消費体力の差が、じわじわと目に見えてきた。 「強い……私の想像を超えているわ……」 やがて辻は、ふっと力を抜いた。 直後に繰り出された衝撃で、あっさりとその刀は半ばから折れ、そして空中へと舞い上がった。辻が、よろけながら 後へと倒れる。そして、逆に今度は尻餅をついた。 「秋吉君……あなたは最高。私を充分に楽しませてくれた。幸せな斬りあい……満足のいく死合だったわ」 快斗は、耳を貸さなかった。いや……もはや聴こえなかった。 そして、無抵抗の辻に対して。 全く躊躇せずに。 刀を、振り落とした。 「これで……やっと、楽になれるのね。ほんと……あなたは最高よ……」 次の瞬間。 辻の体に、左肩から右脇腹まで、直線の亀裂が奔った。 そして。 命が、あふれ出す。 見事なまでの、太刀だった。 辻が、2つになる。 斬り落とされた上半身は、笑いながら、最後まで快斗を見続けていた。 だが、やがてそれも……完全に動きを止める。 「はっ……はっ……」 再び訪れる静寂。 そこに響くのは、快斗の吐息のみだった。 修羅、辻正美。 その死に顔は……本当に、幸せそうだった。 女子11番 辻 正美 死亡 【残り3人】 PREV / TOP / NEXT |