恵美が笑っている。 その隣では、和之が、利哉が、司が、彩が、大切な仲間全員が笑っていた。 そう……全ては、幸せだったあの頃。 その幻の光景に、突如ひびが入る。 そして、音もなく、全てはバラバラに砕け散った。全てが、崩壊した。 あれは全て幻だったのだろうか。全部夢だったのだろうか。 もう二度と、あの世界には戻れない。 「恵美……」 秋吉快斗(男子1番)は、横たわっている湾条恵美(女子34番)の顔を見た。 よく、ドラマとかでは、大切な人が死んだ時は、安らかな顔をしているものなんだ。だけど、それがどうだ? こんなにも、恵美は苦しんでいるじゃないか。 唇を歪ませていて、今にも泣きそうな顔で、本当に、どこが安らかそうなんだ。 恵美だってずっと俺の事を探していたんだ。そうだろう? そして、やっとのことで、本当に残り人数が少なくなったところで、俺に会えた。そうなんだろう? ずっと辛かったんだろう。怪我もしているじゃないか。そういえば恵美、君も誰かを殺したんだったね。 凄く悲しかったろう。肉体だけじゃない。きっと、精神だってボロボロなんだろう? 俺だって、そうだったんだ。 ずっと恵美に会いたかった。せめて死んでしまう前に、一度だけでいいから、会いたかった。 だから必死に生きたんだ。 絶対に死ぬわけにはいかないと、そう思ったから……恵美を排除するような危険因子の駆除を決意したんだ。 それなのに、目の前で、俺の目の前で、君は死んでしまった。 やっと、会えた。嬉しかったろう。きっと、話すことだって沢山あったんだろう。 だけど、もうその口からはなんの言葉も出てこないよね。語り合いたくても、もう住む世界が違うんだよね。 だからさ。 俺も行くよ、そっちに。 そっちで、一人ぼっちで寂しい思いなんかさせやしないさ。 だって……いつでも俺たちは、一緒だったじゃないか。 やっと、俺が何をしたいのかわかったよ。 俺は、このプログラムで死ぬつもりだったんだね。 そして、恵美にだけは生き残ってもらおうと思って、きっと一生懸命に戦ったんだね。 だけど恵美。俺、身勝手だったよ。 たった一人残されて、どんだけ心細いのか、よくわかったよ。 失ってから、ようやくわかったんだよ。……遅すぎるよな。 もう、苦しまなくていい。 もう、哀しまなくていい。 すぐに、そっちへ逝くから。 辻 正美(女子11番)の体から零れ落ちたリベレーターを、ゆっくりと拾い上げる。 恵美の命を奪った銃。こいつで、俺も死ぬんだ。 自らのこめかみに、銃口を押し当てる。 何故か、ひんやりとした感触。 この引き金を引けば、俺は楽になれる。 一瞬で、そっちへ逝ける。 もういい、俺は疲れたんだ。 早く……楽にさせて下さい。 そして快斗は、引き金を。 引いた。 「…………」 気がつけば、快斗は土の上で横になっていた。 起き上がる。どうやら意識を失っていたらしい。じんじんと、頭が痛む。 ここは……どこなんだ。 「やっと気がついたか」 近くで、懐かしい声が聴こえる。 いつも学校で、バカ騒ぎしていた親友の声が。 「ここは……」 「しっかし快斗、お前がまさか自殺するとはね」 「俺は……死んだのか?」 「まさか。なら僕も死んでいるってことになるだろ」 「……意味がわからない。俺は一体どうなったんだ?」 「さぁね。僕が快斗を見つけたとき、お前は引き金を引いた状態で気絶していたんだよ」 「引き金……?」 「なんだ、覚えてないのか」 「あぁ、いや……思い出した。確かに、俺は引き金を引いた。自殺したんだ」 「だけど、その銃は装弾数一発の銃だった。つまり、恵美の命を奪った弾が最後だったのさ」 「じゃあ……俺は、まだ生きている……のか?」 「無論、生きているさ。ただ、一度は死んだ身だけどな」 「……意味がわからない。どうして、逝けなかったんだ……!」 「そんなに死を急いでどうするよ。お前にはまだ先があるじゃないか」 「先なんかいらない!! 俺は……俺は恵美に会いたいんだ!!」 「いい加減目覚めろよ、快斗。お前は……そんなに弱くはないだろう」 「違う! 俺は……弱虫だ。恵美がいなかったら、生きていけない弱虫なんだ……!」 「……なら、弱虫でいい。だけど、弱虫なら弱虫らしく、精一杯生きてみろよ」 「……どうしてだ」 「ん?」 「どうして……お前はそんなに強いんだよ」 「…………」 「どうすれば、そんなに強くなれるんだよ」 「……いろいろとあったからな」 「……どんなことだよ」 「話せば長くなる。まぁ、いい。教えてやるよ。……ほら、いい加減目を合わせて話し合おうぜ」 「…………」 快斗は、振り向いた。 すぐ後の木の幹に、一人の男がもたれかかって座っていた。 「……よし、それでいい」 そう、そいつの名前は。 ……粕谷 司(男子7番)。 【残り2人】 PREV / TOP / NEXT |