外都川の死体は、酷い有様だった。

顔は青白く、口や鼻、耳、つまり体中の穴という穴から赤くどす黒い……血が流れ出していた。寝袋は少ししか 開けられていなかったが、それでも臭い……死臭は凄まじかった。
そして、眼前で親友の死体を見せ付けられた手西は、そのおぞましい光景を眼前に突きつけられていても、膝 は震えていたものの、威勢良く思いっきり机を叩いた。

「な、なんなんだよ、これは! とと外都川は……お、お、お前らが殺したのかよ!?」

その机を叩く鈍い弾けた音と、直後の罵声に、教室の中のほとんどの人物が驚いたのだろう。しばらく、沈黙が 続いた。落ち着いている奴、つまり(この状況では怖いのだが)冷静になっている奴は、教壇の前に立っている 門並と、手西の後ろにいる寺井、あとは、いつ噛んでいたのかガムを食べている堤 洋平(17番)や綱嶋裕太 (19番)くらいなものだった。勿論、自分も動揺はしていたけれど。

ゆっくりと、門並は口を開いて言った。

「みなさんもご存知の通り、外都川君は足を骨折していて入院していました。……がしかし、プログラムの対象 外にするのは不公平ですから、もちろん参加させなければなりません。でも、彼はそれを拒否しました。だから ――

「だから……だから殺したって言うのかよっ! テメェ!」

 いつもは穏やかな手西が怒っていた。怒り狂っていた。今にでも、門並に掴みかかろうかというように、立って いた。
その点、泰志もまた、冷静だったといえよう。もちろん、門並の言うことには納得するはずが無い。でも、そのこ とに抗議したら、恐らくただではすまないだろう、そう考えていた。
だが泰志は、今門並が喋っている最中、彼女の顔が嬉しそうに見えたことに、疑問を感じていた。怒りの方が 遥かに勝っていたが、しかし不思議だった。

「はい。私が直々に殺害しました」

まただ。何故、あんなに嬉しそうな顔をしているのだろうか? ただの殺人狂なのか? それとも……もっと、他 に何か理由があるのだろうか?

泰志の考えは、直後の叫び声で強制的に中断させられた。

「貴様ぁっ! 外都川はなぁっ! 俺の……俺のかけがえの無い親友だったんだ! そうか! 貴様はそんな にあいつ を殺せたのが嬉しいのか! ふざけるな! 還せよ! 俺の外都川を還せぇっ!!」

誰にも止めることなんて出来なかった。手西が、あの手西が本気で怒鳴り散らしているんだぞ? それがどれ ほど凄いことなのか、あの教官はわかっているのか?
ついに手西は門並のブレザー……胸倉を掴んだ。すると、門並はあざやかに手西の手首をひねり返し、突き飛 ばした。


 本当に、鮮やか、としか言いようがなかった。


鈍い音を立てて手西は床に尻餅をついて、少しうめいたが、荒い吐息とともに立ち上がろうとしていた。

一方ブレザーの襟首を整えて、門並は胸ポケットから何かを取り出していた。すぐ近くだけれどよく見えなかった が、何か、リモコンのようなものだった。

「23番 手西俊介。教官に逆らったので処刑します」

淡々と述べられた台詞に、手西の顔が強張った。
しかしそれでも立ち上がって、再度門並に掴みかかろうとした、その時。





 ピッ。





門並が手にもったリモコンのスイッチの1つを押した。手西に、向けて。

なんだ? 泰志が疑問を抱いたころには、既に異変が起きていた。耳を劈く、電子音が響いていた。





 ピ―――ッ。





なんかの信号を受け取った合図のような、長い電子音。そして。





 ドゥンッ!!






泰志は……いや、泰志に限らずクラスメイト全員が、そして手西本人も何がどうなったのかわからなかっただろ う。
軽い爆発音とともに、手西の首が吹っ飛んだ。

「なっ!?」

クラスメイトの誰かがそう言った。しかし、その言葉も誰も気付かないようだった。1つ席が前の時津は、目の前 で手西の首から噴出した血で顔が少し汚れたのか、げふっげふっ、としきりにむせていた。すぐに匂いが漂って きた。


全員が息を呑んだ。誰かの喉が鳴った。

泰志がふと前の方の床を見ると、手西の首が転がっていた。



誰かが嘔吐する音。今度は、別の嫌な匂いが漂ってきた。









 逆らうと、殺される。









「今みたいに反抗する生徒は、遠慮なく首輪を爆破します。あ……まだ言ってませんでしたね。みなさんには首 輪をつけてもらっています。それで、みなさんが生きているかどうかの確認をしています」


そこで始めて、泰志は手西の首輪が粉々になっているのを(もちろん赤黒く変色していたが)確認した。同時 に、首輪の冷たい感触が、再びよみがえってきた。ただ、恐ろしかった。


「それでは、説明を続けます」



 教室は、静まりかえっていた。



  23番 手西 俊介  死亡



【残り40人】




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