「さっきも言った通り、みなさんには首輪をつけてもらっています。それでね、試合中にみなさんが今何処にいる のか、そして生きているのか死んでいるのかを私達が確認します」

 門並の声は淡々としていた。いまや手西の死臭は凄まじい物になっていて、思わず鼻をつまんでしまうほど だった。

「あと、原則として家の中とかには自由に隠れてていいよ。殺し合いをしたくないんだったら、じっと隠れつづけ てもいいんです。だけど、それだとゲームが進行しないじゃない。だから、このゲームには禁止エリアという要素 があります」

 確かに、人を殺めることは極力避けたい。これは多分、クラス全員が願っていることだろう。
でも、このゲーム(ゲームだぞ!? ゲーム!)が進行しなかったら、つまり誰もやる気にならないで、じっと隠 れていれば、とりあえずはゲームがストップするだろう。

 禁止エリア……とは?

「禁止エリアって言うのは、まぁそのまんまなんだけどね。ここは危険なエリアだぞっていう場所を、毎日0時と6 時、1日4回放送します。2時間に一箇所ずつ禁止エリアに追加されます。そのエリアっていうのが……」

そういうと、門並は先程書いた地図の上に、規則正しく線を書いていった。やがてそれは碁盤上になっていき、 続いて各木目の右上辺りに、A=1、A=2……と続けて書いていった。端まで書き終わると、続いて下に行って B=1……と。

泰志には大体の見当がついた。これが、多分エリアなのだろう。

「えっと……これはざっとした図だけど、皆に渡す地図には精確なエリア区分がされているから、あとで確認し ておいてね。まぁ、いいや。それで、例えばここ」

 門並はチョークで適当にC=4を指した。

「ここが……そうだね、5時から禁止エリアになるよって放送で言われたら、5時までにここのエリアから外へ出 てください。さもないと、首輪が」

 門並は首筋を両手で花の形にして、「ボォンッ!!」と叫んだ。


「うわぁぁっ!」


 右斜め後方で、誰かが叫ぶ声が聞こえた。振り返ってみると、富岡欣治(38番)が、椅子を倒して崩れてい た。





 あいつ――





多分、あいつにも手西が死んだ時の光景が目に浮かんだのだろう。自分だってそうだった。でも……あいつは、 富岡は極度の怖がりだったから……考えてみれば、よくここまで我慢したものだ。でも……。





 あいつ……

 このままだと、殺される!





「嫌だぁ……! そんな……そんな! 嫌だぁぁぁあ!!」

「富岡! 黙れ!」


喚く富岡に、泰志は制止をかけた。しかし、富岡は止まらなかった。突然立ち上がると、後ろのドアに向ってそ の巨体を走らせた。


「嫌だぁ! 誰が殺し合いなんかするもんかぁ! あぁぁ……!」





 バァァンッ!





一発の銃声とともに、富岡の頭が爆発した。頭部から血を噴出した富岡は、そのまま脱力し、床に崩れた。ゆっ くりと血が流れ始めて、再び匂いがどっと増した。
恐らく、こうなることを、嫌々ながらクラスメイト全員は予感していただろう。反抗したら、容赦なく殺されるのだ、 と。


「38番 富岡欣治。戦闘参加拒否の為、処刑」

 淡々とした門並の声。それはむしろ、面白がってでもいるのだろうか?

「話を続けます。放送では、その6時間の間に死んだクラスメイトの名前を発表します。そして、禁止エリアも同 時に発表します。だから、時間が立てばたつほど移動できる場所が限られてくるわけなのね。もちろん時間切 れもあります。まぁ全てのエリアが禁止エリアになった時、または、24時間にわたって死亡者が出なかった場 合は」



 その先は容易に予測できた。



「全員の首輪が爆発します。優勝者はありません。だから――貴方達は殺し合いをするしかありません」



 教室全体が、蠢いた。





 誰も今、富岡が殺されたことなど気にも留めずに。



  38番 富岡 欣治  死亡



【残り39人】




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