戸塚正太郎(34番)は、震えている足を必死に動かした。

 廊下にある階段を降りて、昇降口へとゆっくり歩いてゆく。その反対側には、今はメインコンピュータールーム として利用されている職員室があったのだが、彼はそちらの方を見向きもせずに玄関へと急いだ。



 なんで、なんであの女は。

 僕をやる気だとみんなに言ったのか。



 分校を出て、とにかく走りつづけた。

誰もいないせいで広く見える運動場を抜けると、大きな柵が見えた。そのまま柵沿いに走って裏門らしきところ から出ると、今度は左右に道が分かれていた。
どっちへいけばいいのかわからないので、正太郎はコンパスを急いで取り出して、月明かりにかざした。丁度満 月だったので、それは不便なく見ることが出来た。

何しろ時間が無い。2分のインターバルしかないのだ。




 そして、みんなが僕を見た。

 冷たい視線だった。



 誰も僕を信用してくれない。







 だったら。





 彼、正太郎は他のクラスメイトを信じたくは無かった。もとい、信じる人物がいなかったと言ってもよい。

昔から正太郎は友達ができないせいで、自分のクラスにも絶対に信用できる人物はいなかった。信じることが できるのは己の身のみ。だから生き残る為に、たとえどんなに強い奴でも、立ち向かっていこうと考えた。もし、 支給武器に本当に『武器』が入っていたのなら、相手の隙をついて殺そう、そう決意した。
でも、まずはクラスメイトから離れなくてはならない。自分の武器を確認しないまま分校の前にいたら、それこそ いい標的だ。折角1番最初に出ることが出来たのだから、ひとまず、分校から離れるべきだ。

少し考えて東へ行くことにした。西に行けば一本道の山道だ。一本道ということは、誰かに出くわしたら逃げる 場所が少ないということだ。その点、東には商店街が続いている。視界をさえぎる物は多いし、家もたくさんあ る。

だが、正太郎は家には隠れないことにした。

多分クラスメイトは数人が家の中に入る。そして、もしここ、G=4が禁止エリアにでもなったら、隠れていた人物 と遭遇する可能性はかなり高い。危険だ。
だから、およそ家とは関係なさそうで、しかし灯台下暗し。G=6という極めて半端な場所に存在した茂みに隠 れることにした。

正太郎は丁度人1人が充分入れるほどの空間を見つけて、ひとまず腰をおろすと、時計を見た。既に出発から 5分経っている。多分、今頃は飛田信行(37番)が出ている頃だろう。

たしか、飛田は親が反政府組織に入っているとか言っていたっけ? それこそ要注意人物だ。そういう奴こそ、 平気で生き残ろうとするものだ。ことさら戦闘にも慣れているのだろう。

彼と出席番号が(それに外都川が死亡していて)さらに近くなっていた為、正太郎も本能的に逃げたのかもしれ ない。


 とにかく正太郎はデイパックを開けた。





 武器が本当に『武器』なら。





 彼は願った。

 と、手になめらかなプラスチックの感覚。

 取り出してみると、どうやら刃物の類ではなかった。がっかりしたが、とにかく見てみることだと、正太郎はそ のミニチュア・コンピューターゲームのような情報端末機を見てみた。電源がOFFになっていたので、ONにして みる。すると液晶画面が微かに光った。中央には星型の黄色いマーク。



 なんだ? これは?



さらにデイパックをあさると、紙が出てきた。

「ガダ…ル……カナ…ル……探知機…取扱説明書……?」

 説明書を月明かりにかざして見ると、どうも、この端末は自分達に平等につけられた(そして手西を殺した)こ の首輪を探知することができるらしい。半径50mにしか効能は無いが、それでも充分だった。つまりは、逃げつ づければいいのだ。そうすれば、いつかは終わる。まずは武器だ。包丁でもなんでもいい。とにかく、武器を手 に入れて、最後の方まで生き残ることが出来たら、また死体にも出くわすだろう。


 もし、その死体が何かしら武器を所持していれば。



 僕は生き残れる。



 かくして戸塚正太郎は、やる気になった為に隠れつづけるという、一風変わった選択をした。

 時計は、既に出発してから10分以上、経過していた。



【残り39人】




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