23
「殺してやる!」
多重山俊也(2番)は必死に海岸線を走っていた。
後ろからは、出席番号が一つ下、ほぼ2年間に渡り、席が上下で親しい関係だった、尚本健一(3番)が凄い形
相で、そして斧を振りかざしながら自分を追ってきている。
「殺してやるぞ! 畜生め!」
必死に喚く健一を後ろに見ながら、地図のことを思い出した。ふと、進行方向の左側を見た。すぐそこに、中学
校の建物が見えた。既にあそこは午前6時に禁止エリアになったはずだ。だから、自分はこのまままっすぐ海
岸線に沿って走らなければならない。
そもそも何故健一が自分を追いかけてくるのがわからなかった。
自分が海岸線で佇んでいたら、急に後ろから追いかけてきたのだ。そして、自分の顔を見るや否や、手にもっ
ていた斧を振りかざしてきたのだ。
今思い出してみると、その斧には赤色の物が付着していたと思う。すると、既に健一は、誰かを手に掛けたとい
うことなのだろうか? あのおとなしい健一が? でも、現に自分をも殺そうとしているじゃないか!
考えをめぐらせていると、不意に視界が消えた。足に何かが突っかかり、転んだ。
岩だった。砂浜の向こうに、岩場が見え、その手前に点在した岩に足を取られたのだ。
「……っ!」
そして頭部を打ち付けたために、もちろん痛かったのだが、それよりも今は、目の前に健一がいたことに驚きを
隠せないでいた。既に健一は虚ろな目を俊也に向け、静かに斧を振り下ろそうとしていた。
「待てっ! 待ってくれ、健一! お……俺が、何をしたんだ!?」
振り上げた手はそのままに、健一は息を喘がせながら言った。
「月島が……やる気だったんだ……! あいつ……いきなり、僕を……!」
「は? 月…島……? 健一、月島に会ったのか?」
放送内容を思い出してみる。たしか月島厚志(14番)は、あの大勢のクラスメイトの中に含まれていた筈だ。
まさか……健一は。
「あいつは……僕を殺そうとしたんだ……! 僕は何もしてないのに……!」
全てを理解した。つまり、月島厚志は目の前にいる健一を襲ったのだ。予告無しに。そして何らかの理由で月
島はそのまま死んだ……あるいは目の前にいる健一が……その血まみれの斧で月島を殺害したのだろう。
だが、健一は人を信用しなくなった。仲の良かった自分にでも、疑惑があったのだろう。信用できなかったの
だ。だから、襲ってきたのだ。健一もまた、予告無しに。
「お前……月島、殺したのか? だったら……俺も殺すのか?」
目が一瞬輝いたように見えたのは、俊也の感傷なのだろうか?
あっさりと、健一は言った。
「殺し……たよ。これ、正当防衛なんだろ? お前を殺したって、このゲームの中では罪になんないんだろ?」
「健一……!」
「頼むよ……僕の為に、死んでくれよ……! 君の命なんて、僕には必要ないんだ……!」
そしてその言葉を最後に、健一は目を閉じた。
ああ、こうやって健一は月島を殺したのだ。そして、次は自分が殺されてしまうのだ。
死ぬ……のか?
まだ……知らないこと、一杯あるのに。死ぬのか?
いや、死んでたまるかっ!!
一瞬の判断で、俊也は転んだ体をねじり、横へ転がった。砂が顔に付着したが、気にならなかった。
もちろん、その刹那、俊也がいた場所に斧の斬激が下る。
そして健一が目を開けた瞬間、俊也は支給武器のサバイバルナイフを水平に構えて、健一の体に体当たりし
た。
ズブリという何かが食い込む感触。
そして手が真っ赤に染まるのを感じながらも、それでも俊也はナイフをねじった。健一が口から血を噴出す。
そして、ナイフを抜き出した途端、大量の血が出てきた。と同時に、健一も砂浜に崩れ落ちた。口から泡を吐き
ながら、健一は何か言いたげだったが、俊也はそのまま胸にナイフをつきたてた。
今度こそ健一は死に、俊也は汗を袖で拭った。
「健一……! 俺だって、死ぬのは怖いんだ……! ゴメンな……!」
「多重山……!」
唐突に響いた後ろからの声に、俊也は一瞬肩を震わせて振り返った。
そこには、俊也が出した悲鳴に気がつき、様子を見にきた津崎 修(16番)が、拳銃を手にして、ゆっくりと立っ
ていた。
状況から見て、明らかに危険だった。
3番 尚本 健一 死亡
【残り30人】
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