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明らかに状況から考えても、自分は危険だった。
血まみれの手で握っているナイフ、すぐそこに倒れている死体。そして先程のやり取りを見ていない者がこの状
況を見て、一体なんと思うだろうか?
そして、こんなゲームの中で、誰が正しい思考能力なんて持っていようか?
つまり。
「多重山……まさか、お前……」
俊也が、健一を殺した。それだけの事実。正当防衛だ云々言ったとしても、それはただの言い訳に過ぎない。
きっと津崎から自分を見たら、自分は危険人物にしか見えないのだろう。
でも。
「俺じゃないんだ! 健一が俺を襲ってきただけなんだ!」
もちろん俊也自身も思考能力は低下していた。
人を殺してしまったという罪悪感。全てを覆ってしまっているような不思議な感覚。俊也自身よくわからない、感
覚。
「嘘つけ! 君が健一を殺したんだろう! 俺は見たぞ! お前が……刃物だな!? 刃物で健一の胸を刺す
瞬間を、俺は見たんだ!」
「違う! 健一が襲ってきただけだ! あいつが斧で俺を襲ってきたんだ!」
「だから殺したのか!?」
俊也自身も、自覚症状はあった。だが、はたから見れば、それはただ喚いているだけだった。
そして……静寂。波の音が、静けさをいっそう高めていた。
「俺は……健一と同じだ。死にたくないんだ……死ぬのが怖いんだ……!」
「……怖いのか……!? そんなこと、誰だって、一緒だろ? だからやる気になったんだろ?」
「違う! 俺は決して自分から人を殺めようなんて思ってない……! わかってくれ、津崎……!」
津崎の持つ銃の撃鉄は既に起こしてあった。今引き金を引けば、後には砂浜に2人の死体が転がっているだ
けになる。それで終りだ。
そんなの、嫌だ。
「津崎は……死について考えたことがあるか? 人は死ぬとどうなる? 肉体は火葬されて、灰になるだけだ。
精神は何処へ行く? 来世なんて本当にあるのか? それも……もしかすると200年くらい後になるかもしれ
ない。その時間はどうなる? あるいは永遠にこないのか? 宇宙がまた1つの点に戻ったとして、その間自分
はどうなる? 意思も無いままか? そして永遠って何だ? 一体……だから」
それは諭すというよりも、呟きにしか聞こえなかった。
「だから……俺は生きたい。折角人間という身に生まれ落ちたんだから、生きたいんだ……! 死ぬのは、怖
い……!」
「それはまた、随分身勝手だね」
俊也ははっと顔を上げた。そこには、冷静な顔をしている津崎がいた。
「今の君の発言を聞いていると、自分が死ぬのは怖いらしいけど……そんなこと当たり前だろ? 誰だって死ぬ
のは怖いに決まっているじゃないか。だから必死に今を生きている。いつか死ぬまでな」
銃口が自分の顔……眉間にポイントされている。
そんな……そんな……!
僕、こんなところで死ぬのか? こんな簡単に死ぬのか?
嫌だ、死にたくない。
生きたい――!!
パァン!
頭を車に引かれたような感覚。それだけだった。
後はもうわからない。自分がどうなるのか、来世はあるのか、何もかも。
そして砂嵐。
「俺も今を生きている。存在しているんだ。そして、これからも在り続けたい。だから、こうやって」
このゲームで優勝して、家に帰ってやる。
そして俊也の手からナイフを抜き出して、無造作にデイパックに詰めた。
「くそっ! 人殺しなんて……糞くらえだ!」
津崎修も、死にたくなかったから。
今の銃声を誰かが聞いたかもしれない。
彼はそう思うと、そそくさと北に向って走っていった。
後には、2人の死体が残るのみ。波は、いつもと変わらず、穏やかだった。
2番 多重山 俊也 死亡
【残り29人】
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