2日目、午前6時。第3回放送。 G=4、今日はいい天気だ。昨日とは違って、雲ひとつ無い、晴れ。 “おはようございまーす。今日は素晴らしい天気に恵まれましたね。今日も一日、頑張って殺し合いを続けましょう。と いうわけで、まずは深夜の時間帯に死んだクラスメイトを読み上げまーす” 門並の声が、辺りに響き渡る。その声で、荒山美津子(女子1番)は目覚めた。森の中で野宿をするなんて経験は 初めてだったけれど、なんだかとても新鮮で、目覚めはそれほど悪くも無い。それが、意外だった。だけど危ないとこ ろだった。このまま呑気に寝ていたら、放送を聞き逃すところだった。慌てて、地図と筆記用具を取り出す。 “えーと、まずは男子。3番、岡本翔平。11番、寺井晴信。続いて女子。20番、由井都。以上の3名です。まぁ夜だ ったし、ペースがゆるいのは仕方ないのかな。だけど気をつけて。もうすっかり日が昇っているし、今日は昨日と違 って視界が良好。お互い発見されやすいから、慎重に行動したほうが得策だと思いますよ” 3人。やはり、思ったよりも進みが遅い。会場が山村ということもあって、恐らく互いに発見しにくいのだろう。たとえそ れが日中であっても、暗い森の奥深くに身を潜められては、どうしようもないのではないかと思えてしまう。まぁ、そう 考える私自身がそれを実行しているのだから、当たり前だ。大方他の生徒もそうやって隠れているのだろう。偶然に も遭遇した者同士が、殺しあう。それだけだ。だから、ペースはこんなにも遅い。 “では、続いて禁止エリアの発表です。7時からA=4、9時からE=5、11時からF=4です。ちょっと会場が狭くなっ てきたね。まぁ、そうでもしないと戦闘が起きないでしょうから、あなたたちにとってはこのくらいがちょうどいいのか もしれませんね。それでは次は6時間後に” それだけ伝えると、放送は唐突にブツンと切れた。地図に書き留める。大分、禁止エリアが増えてきた。特に中央部 の埋まり方は凄まじい。会場が分断されてしまったら、どうすればよいのだろうか。いや、流石にそれは政府側も検 討してくれるだろう。B=5、6、7が指定された瞬間に、時間切れは必至なのだ。まさかあの渓流を横断しようと考え る生徒は、そうはいまい。 そこで考える。担当教官として、ここはやはり数多くの戦闘を起こして欲しいに違いない。プログラムは便宜上は戦闘 実験だ。互いに初めて武器を持つもの同士がどのようにして行動し、殺しあうかを記録、考察するもの。だとしたら、 自分の命を守るためにじっと隠れるという戦法も否定は出来ない。しかし、それだとつまらない。……つまらないとい うのも失礼なことだけれども。なら、政府側から戦闘を引き出してしまえばいい。そして、政府側が生徒側に干渉でき る手段は二つ。放送による教官からの通達と、禁止エリアの存在。だから、放送に含まれる情報は最大限に活用し なければならない。それが、殺戮に走るものであろうが、保身に努めるものであろうがだ。 私は、どちら側の人間なんだろう。さっさと今の位置に陣地をはり、ただじっと体力を温存している。場所が場所だけ に、これまでに誰とも遭遇していない。ただ、いくつかの死体を見ただけだ。恐らく、死体も存在しなかったら、これが 本当にプログラムなのかどうかでさえ、半信半疑だったには違いないが。 私は、どちら側なのか。やる側か、やられる側か。出来れば、やられたくはない。しかしそうなると、やる側にまわるし かなくなる。両極端だ。弱肉強食の世界。これまですごしてきた平和な日々とはかけ離れた、サバイバルの世界。い っそ狂えてしまえばどれだけ楽か。 ただ、根底にある感情。死にたくないという願い。そこから導き出される答え。それは。 はっとした。今、自分がいるエリアはG=4だったはず。そして、F=4が禁止エリアに指定された。つまりそれは、 政府側が意図したものだと考えることも可能だ。もしも誰かがF=4に滞在していたのならば、その人物は行動を起こ す。行動を起こせば、誰かと遭遇する確率もあがる。誰か。そんなものは決まっている。四方のエリアに滞在している 生徒だ。つまり、私。私もその中に含まれている。この近辺には、実は沢山の生徒が潜んでいた。そんな風にもとれ るのだ。 身をかがめて。息を潜めて。私は、周囲をじっくりと観察した。そして、見逃さなかった。北の方向側に見られる、不自 然な茂みの揺れ。そしてその陰の奥にちょこんと見える、動く物体。生き物が。 誰か、いるのだ。 私はカバンの上に安置していた、ヌンチャクを掴み取る。こんなもので人が殺せるかどうかはわからない。だけど、鈍 器にはなる。武器はこれしかない。なら、これで頑張るしかないのだ。 そう、私の中で導き出された答え。それは。 ……正当防衛。 私はヌンチャクを握り締める。 茂みから姿を現した女子生徒、佐藤梓(女子6番)は、おろおろとするばかりだった。
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