伊出茜(女子2番)と合流してから、あっという間に12時間が経過した。 加藤明美(女子4番)はベッドからもそもそと這い出る。うん、非常によく眠れた。ぐっすりと安眠がとれた。 「おはよー」 あんな夜中まで起きていたことはない。体はとっくに限界を迎えていたのだろう、明美は本当によく眠った。10時間 近く眠るなんてことはまぁ珍しくもないけれど、まさかそれがこのプログラム中に実現できるとは到底考えてもいなか った。 リビングでは、呑気に小説本を読んでいる茜がお茶をすすっていた。台所には携帯ガスコンロと非常用水のペットボト ルが散乱している。 「あぁ、ようやっと起きたかー。とりあえず、お茶でも飲む? 沸いてるよ」 「んー……じゃ、飲もっかな」 程なくして、湯気がたっている湯飲みが目の前に運ばれてくる。これはほうじ茶か。心地よい香りが、肺の中を満た してくれた。すする。うん、おいしい。 「あー……なんか生き返ったぁー」 「なにを今更。明美、ホントにグースカ寝てたよ。おまけに寝相もよくない。何度蹴り起こされたか」 「な……そんなひどくないってば」 「ま、この状況でそんだけ寝られれば充分でしょ。とりあえず放送は聴いて……ないみたいだね。はい明美ー、今何 時かなー」 居間にかかっている時計を見ると、午後二時半をまわったところだった。四時前には寝ていたと思う。そして放送が 流れた記憶はない。つまり私は朝と昼、二回の放送を聞き逃してしまったわけだ。 「あれ、えーと。ここはまだ禁止エリアにはなってないのかな」 「うん、それはわりと平気。とりあえずはいこれ、地図。忘れないうちに書き留めておき」 地図を渡されて、私はいそいそと自分の地図を取り出した。あらかた書き写したところで、地図に印刷されている生 徒名簿のチェックの数が増えていることに気がついた。数えてみると、9人の死亡が確認されたらしい。よく見ると、 自分に襲い掛かってきた由井都(女子20番)の名前にも斜線が引いてあった。幸い、彼はまだ死んでいないらしい。 それだけは嬉しいと思うべきなのだろう。 「伊出さん……なんか、一気に沢山死んじゃったみたいだね」 「……そやね。さっきの放送では6人いっぺんに呼ばれた。やっぱり、日が昇ってから戦い始めるクラスメイトが多いっ てことなんやろね」 沈黙。 ほうじ茶を一口すする。こうしてのんびりと過ごしている間にも、どんどんとクラスメイトは殺し合いを続け、そして消え ていくのだろう。私たちは、本当にここにいて良いのか。でも、睡眠も大切だし。どうすれば。 「誰かに会いたい、とか。そういう願望はないんか?」 「え、私?」 「あんた以外にここには誰もおらんよ」 誰かに会いたい。それはもちろん、彼に会いたい。結局出発してから一度も会えてないのだ。どうにかして会いたいと は思っている。だけど、それも難しくなってきているのだ。 「これ以上ここにいても、そいつに会うのは難しくなるばかりだとは思わん? だったら、日の出てるうちに行動起こし た方がええんよ。ほれ、探そ。な?」 「あ、えっと……。伊出さんは、いないの? そういう、誰か会いたい人って」 「おらんよ、そんな大切な人。あんたじゃあるまいし」 「じゃ、じゃあ……その。入江くん、なんだけど。探すの、手伝ってくれる、かな?」 彼氏の名前は、入江浩太(男子1番)。 私の、大切な人。 「ふーん、入江っちねぇ。あいわかった。じゃ、行きましょ!」 元気よく茜が立ち上がる。そして、荷物をまとめ始めた。 だけど、私は慌てて茜を呼び止める。 「ちょっとタンマ……! あのー、さ……」 「んー、なに? せっかく人が意気込んでるのにさー」 「何も食べてなくて、さ。ごはん食べてからでも……いっかな」 茜は呆気にとられたような顔をして、力が抜けたのか再び椅子に腰を下ろした。次の瞬間、私のおなかから、ぐーっと いう大きな音が盛大に室内に鳴り響いた。互いに顔をあわせ、大爆笑する。 「そういえばそうやったね。あんた、なにも食べずにグースカ寝てたんやっけね」 「……うん、ごめん」 「よっしゃ、まかしとき。果物の缶詰でも、あけよっか」 「……うん、ありがと」 腹が減ってはなんとやらとはいったものだけれど。 やっぱり、少しくらいは緊張感を保たないといけない気がする。 そう、思った瞬間だった。
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