「う……う〜ん……」

ふと、司は目を覚ました。


 いけない、いつの間に眠っていたんだ?
 おっかしいなぁ……昨日だってちゃんと寝たはずなのに。今何時だろう。


アナログ式の腕時計を見てみると、AM1:50と表示されていた。


 いけない! 12時間以上も寝てたのか?!


だが、どうもおかしかった。第一自分は寝た覚えが無い。たしか最後に覚えているのは、あれだ、唐津の前の席に座
って、ちょっと辺見のことを考えていたんだ。それから記憶が無いって事は、その時に不覚にも寝てしまったんだろう。



 でも、なんで?



「だからさ、そっちのミスでしょ? こんな時に何も新型の麻酔兵器を使う事無いじゃない。おかげでまだ生徒達寝続
けてるわよ。もうちょっと安全性について考えてもらわないと、蒔田君」

「本当に申し訳ございません。上の方にはきちんと伝えておきましたから、進行については大丈夫です。それに……
普通の催眠ガスですと、こんな大人数きちんと眠らせられるかどうかが不安だと上の方もおっしゃられておりまして…
…」

廊下の方では誰かが言い争っていた。



 新型の麻酔兵器に催眠ガスだって? なんだそりゃ?



だがそのただならぬ雰囲気を感じた理由は、どうやらそれだけではなかったらしい。教室を見回してみると、全員が
机に突っ伏していた。まぁ時間が時間だからなぁ、仕方ないか。
そう思いながらも、自分ひとりだけ起きているのは不安だったので、隣の席に座っていた坂本理沙(女子7番)を揺さ
ぶり起こした。理沙はなかなか起きてはくれなかったが、まぁ15秒ほどで寝ぼけながらも顔を起こしてくれた。

「あぁん? おかーさーん今なんじー?!」

突然そのようなでかい声を出すものだから、一斉にクラスの大半の生徒が起きた。どうやらもの凄く寝ぼけているらし
い。毎朝起こす親も大変なんだな、とふと思った。

「あれ……粕谷君? なんでここにいんの?」

「ここにいるもなにも……第一ここは何処なんだっつーの」

そう、それは確かな疑問だった。

自分達が何故眠っていたかなどはともかくも、ここは自分達の慣れ親しんだ教室ではなかった。構図は似ているもの
の、それはどうみても教室なんかではなかった。これだけの人間が広々と座れている事から、何処かの体育館や会
館みたいな場所なのだろうが、それが何処だかは分からなかった。

「中村ちゃんが多分説明してくれるから……別に大丈夫でしょ?」

中村ちゃん。一応女性の担任なのだが、どこか抜けている所があって、生徒には気軽にそう呼ばれていた。男子、特
にあの『野良犬』と呼ばれている馬鹿軍団からは下の名前で呼ばれていることもある。本名が中村 雅というものだ
から「み〜やび♪」と呼ばれていることもあるくらいだ。別に当人は気にしていないようだからいいのだけれども。



 ガラガラガラッ!



と、唐突にその部屋の引き戸式の扉が開いた。
そこから部屋の中に入ってきたのは、青いサングラスを掛け、その奥に鋭い目をした女性、だった。中村ではない。

「ええと……今2時よね」

あちこちで「誰だ、あいつ」とか「みやび何処だよ」といった声がする。

その男子生徒たちを見ながら、その女性はちょっと不気味な笑みを浮かべて、電燈の電源を入れた。一斉にまぶし
いほどの光が司達の視界に降り注ぎ、思わず目を瞑ってしまった。

「ま、まぶしい……」

「はーい! 皆さん起きてくださーい! ほら、さっさと起きろぉ!」

そう言うと、左から3番目の列の最前列でいまだグースカ寝ているザ・デブ、金城 光(男子9番)の机を蹴り飛ばし
た。光は机ごと転倒し、後ろの席の(そして同じ『野良犬』の)小林 明(男子10番)を巻き込んで事態は収まった。

「あいたたた……おら、デブどけよ」

「うるさいなぁ……好きで転んだわけじゃないっつーの!」

そうこうしている間に、その女性は後ろのホワイトボードに黒いペンで文字を書いていた。
司は総じて目が良いとはいえなかったし、今は出席番号順に座っている為前から7番目だ。その文字はぼんやりとし
ていて、読む事が難しかった。

「ほら、もう全員起きたね?! じゃ、まずは自己紹介をします! 新しくこのクラスの担任となりました、道澤 静と申
します。宜しくね」


 新しい担任? 中村ちゃんはどうしたんだよ?


「ははぁん? さては今の状況がわかっていないのですねぇ? では、発表させていただきます」

そう言うと、その道澤とかいう女性は軽く咳払いをして、そして言い放った。











 そう、重く、強く、はっきりと。











「貴方達は本年度第42号プログラムに選出されました」











誰かが息を呑んだ音が聴こえた。







   【残り68人】



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