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 砂田兄妹が探知機の反応に気付いて、もと来た道へ引き返した原因となった張本人、表示された名前はF−13、
すなわち成田玲子(女子13番)は、地図上でいうC=4に位置する交差路に存在する噴水の前に呆然と座ってい
た。
その顔は既に放心しており、いつもは血の気の多いその顔色も蒼白となっていた。



 私は……どうすればいいの?



スリの名人として有名な彼女だったが、別に本人にその気は無かった。

だって、あたしはみんなの隙を突くのが上手いだけだもん。その部分が他の人より優れているだけで、あとは普通の
女の子だもん……!

それが何故スリの名人などということになってしまったかというと、かつて一回だけ、あの悪名高い長谷美奈子(女子
18番)に絡まれ、唆されて実行してしまったのだ。人ごみの中で、中年おやじの背広から抜き取った財布。中には3
万円が入っていた。その時は、罪悪感よりもむしろ達成感があったのだ。



 こんな簡単な事で……こんな簡単に稼げるなんて……!



それ以来、病み付きになってしまったのだろう、服装やピアス、化粧が派手になってくると、今度は逆に美奈子に嫉
まれるようになってしまった。


 そして、ある日遂に、その事が発覚してしまった。


『3年A組女子13番成田玲子 その実態に迫る!!』


そのような記事が、校内の職員室前の掲示板に貼られていた。今までの経緯や犯行の瞬間が、ほぼ激写といっても
いいくらいにされていた。当然玲子は停学、自宅謹慎を言いつけられた。親からは見離され、友達もいなくなった。
美奈子だ、全て美奈子のせいで私の人生は滅茶苦茶になってしまった。このプログラムは、折角のチャンスなのだ。
そう、私は美奈子を……。



 いや、駄目だ駄目だ!!
 そんな……こんな殺人ゲームに乗るなんて馬鹿げている!!
 あたしは絶対に乗らない……死んでも、乗ってやるもんか!



そんな時、ふと目の前の道に、人が立っているように感じた。玲子は顔を上げた。








 橋本康子(女子17番)は、ある地元の信仰教団の信者だった。彼女が首元から下げているペンダントも、その象徴
を表している。




 神様……何故、私たちは闘わなくてはならないのですか?




出発してすぐに、一人の女子生徒の死体を見つけた。顔に斧が刺さっていた。
それを見た途端、自分でもわからないままに反射的に駆け出していた。そのまま道沿いにまっすぐ突き進んでいく
と、少ししてすぐに息が切れた。そして、今、その終点も近いであろうと思われる箇所にいる。
渇いた咽を潤すべく、少し道をはずれて支給されたデイパックをあさる。なるほど、やはり水の入ったペットボトルがあ
った。康子はそれを慎重に開けると、一口だけ飲んだ。ふと、ペットボトルを戻す時に、硬い物が触れた。



 あ……これが武器なのかもしれない。
 私は……絶対に友達は殺さないけれど……もしもの時のために確認だけはした方がいいわよね……。



そう言って、その気になる中身を取り出して、ほうっと息を吐き出した。
大丈夫だ。こんなものじゃ、人なんて殺せはしない。私は……どうやら誰も殺さないで天に召される事ができるよう
だ。
そう思って、康子は支給された何の変哲も無いハンマーを元通りデイパックにしまうと、再びそのまま歩き出していっ
た。不思議と、恐怖心は無かった。斧が刺さっていた死体を見たときはあんなに気が動転していたのに。

少し歩くと、噴水のような池があった。恐らくこの島の中心的シンボルだったのだろうが、現在は電気が止まっている
せいか、残念ながら水は噴射されてはいなかった。


ふと、そのほとりに一人の人間がいるように思えた。


 誰だろう?


そう思ってじっと見つめていると、そちらも私に気がついたのだろう、顔を上げた。夜目にもはっきりと見えるその厚化
粧とピアス。恐らく、成田玲子だ。

「玲子ね」

その人物がびくっと震える。どうやら正解のようね。
玲子なら、恐れる事は無い。大丈夫、私は誰とも等しく平等に付き合ってきたから、大丈夫。

「い……いや……」

脅えているのかしら。私は別に脅える必要もないから、玲子に近づいていった。

「ほら、そんな脅えないで。私よ、康子。橋本康子よ、やる気じゃないわ、安心して」

「ふは……ふふは……! そうか、そうだったのね……。やっぱり、あたしまだ死ぬのが怖いんだ……そうだよね、死
ぬのなんか怖いもんね……。死なないためにはさ、殺しちゃえばいいのよね……殺しちゃえば……はは」

何か玲子は呟いているようだったが、よくは聞き取れなかった。
きっと怖いのね。いいわ、私が、貴女を癒してあげる。だから、怖がらずにじっとしてて。

 私は、貴方を救いたいの。


「あたしは、まだ生きる。絶対ミナコに復讐、する。今、死ぬわけには……いかないんだぁ!」


突然玲子が立ち上がって奇声を上げた。おもわずびくっとしてしまった康子の腰まで伸びた長い髪をむんずと玲子に
つかまれた。

「痛っ!」

それだけではすまなかった。そのまま今度は顔を押さえつけられて、その水が張ってある噴水の中へ、無理矢理押
し込められた。突然の出来事で何がなんだかわからなかったが、すぐに息ができない事に気付き、慌ててもがく。だ
が、玲子の手はがっちりと髪に食い込んでいて、到底離れそうにはなかった。



 ああ、私の人生はこんな形で終わってしまうんだ。こんな狂った女に殺されて終わるんだ。
 思えば恋なんてしていなかったな。一度でいいから、してみたかったな……私の、人生。



「ぎゃはは! 苦しめ! あたしの気持ちを思い知れ!!」



 薄れゆく意識の中で、玲子の叫び声を遠くに聴きながら、康子は思った。







 神様……何故、私たちは闘わなくてはならないのですか?









  女子17番 橋本 康子  死亡







   【残り66人】



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