奈木和之(男子23番)は、地図上でいうE=2地点にいた。 いたというよりは、隠れ潜んだと言う方が妥当だろうか。彼は、偶然にも木の幹がしっかりとしている大樹の近くに空 洞を見つけ、そこに潜り込んでいた。 ここなら、余程の事がない限り見つかる事はないだろう。それなら、きっとこれを使う事もない。彼はそう思っていた。 これという言葉が差すもの、すなわち彼に支給された武器は、当たり武器の中でも最高峰、無骨な箱にグリップをつ けただけのような簡単な代物だが、その威力が凄まじいマシンガン、イングラムM11だったのだ。この銃はM10オ ートに比べて、性能がほぼ一緒なのに従来の物よりもかなり軽量化されているもので、非力な女性でも扱えるほど のものだった。 そうだよね。こんな危ない武器、持ってたら、襲われた時に絶対に使っちゃう。 これを使ったら、ほぼ確実に襲ってきたクラスメイトは死んじゃう。 そんなのは嫌だ、僕はこんなゲームに、乗りたくない。 やる気がない生徒に最高の武器が支給されることによって、今回のプログラムがどうなるかはわからない。 本来、生徒に支給された武器は大体が首輪に取り付けられている集音マイクからの盗聴でわかる。だが、和之は出 発してからは一言も喋らずに、黙ってその隠れ家に入った。 結果、政府側にも誰に支給されたのかということはわからなくなり、トトカルチョも大いに盛り上がる事になる。 勿論先述のとおり、実際にはもう1丁、マシンガンが支給されている。それが誰なのかは、わからないけれども。 もしこちらの方もやる気でない者に渡っていたとしたら、それこそこのクラスの進行速度は遅いものとなるだろう。 和之は、出発地点に坂本理沙(女子7番)の死体があって多少は驚いたが、実際まぁこんなものなのだろうと思っ てもいた。プログラムに巻き込まれたら何が起きても動ずるな、とニュース番組でプログラムの専門家だかなんかが そう言っていたように、このゲームでは狂った奴の負けなのだ。だからこそ自分は狂ってはいけない。狂ってしまった ら、何をしてしまうのかわからない。まだその時は自分の武器も知らなかったし、(一応死んでしまうのだとわかって はいても)死にたくはなかった。 そんなわけで、すぐ近くの場所で、とりあえず和之はデイパックを開けた。 水の入ったペットボトル、地図などいろいろなものが詰め込まれている中、底に硬い物があった。それを取り出してみ ると、イングラムM11が入っていたわけで。 弾は付属の箱に予備マガジンと一緒に大量に入っていたし、暗闇の中説明書を読んでみても、その威力は痛いほど にわかった。 そして、決意した。 隠れつづけよう、みんなを傷つけない為に。 だから仲良しの友達と合流する事も諦めた。優勝する事もあきらめた。 あきらめれば、こんな物騒な武器なんて必要ないんだ。無理矢理だったが、中学3年生なりに彼は考えた。 仲のいい秋吉快斗(男子1番)や粕谷 司(男子7番)、砂田利哉(男子14番)と砂田利子(女子8番)兄妹も探さな い。 万が一遭遇する事があっても、決して一緒に行動なんてしない。 そうすることで、自分はこの武器の力を封印する事ができるのだ。 実際にもう銃声が鳴った。3発だ。もしかするとその3発で誰かがまた死んでしまったのかもしれないし、銃以外でも、 そう、きっと包丁か何かで殺されているクラスメイトもいるかもしれない。 ひょっとすると、今にでも女子生徒の悲鳴がここまで響いてくるかもしれない。 嫌だ! 嫌だ! 聞きたくない!! そうだ、僕は隠れなきゃいけないんだ! クラスメイトを助ける為に、隠れなきゃいけないんだ!! 心配性、とはこのことだろうか。 だが、この行為は、しばらくの間はクラスメイトのために役立ったろう。 彼が、この大樹を襲撃されるまでは。 【残り66人】 Prev / Next / Top |