丁度、エリアB=8が禁止エリアに指定された。 だが、勿論引っ掛かった生徒はいない。 辺見 彩(女子20番)は、砂浜、地図上でいうB=7にいた。 彩が今いる位置から東へ10歩ほど歩けば首に巻かれている銀色の爆弾が爆発してしまうくらい、今の彼女の立ち 位置は危ないのだが、勿論彩はそんなことは知らない。 彩は、とりあえずどうしようか迷っていた。 自分が出発した際、坂本理沙(女子7番)が死んでいた。なんとなくその光景を見た時、彩は司がやったのではない かと思った。出席番号が坂本さんとかなり近い粕谷 司(男子7番)。道澤というあの担当教官が説明している時、彩 はそっと司を眺めていたのだ。そして、その瞳に宿る『それ』を見て、彩自身嫌な予感がしていたのだ。 もしかすると、毎朝交流があったあの司は、その気になってしまったかもしれない。 愛犬のペティと毎朝散歩に近所の池まで行く。そこには必ず司がいた。あの司の、私に会った時のとても嬉しそうな 顔が、なんだか私も嬉しくさせた。そう、私たちのささやかな幸せ。 でも、その当たり前の日々はもうやってくることはない。 司は多分ゲームに乗ってしまった。毎朝彼を見ていたから、それは手に取るようにわかってしまったのだ。司は、なん でも顔に出るね、とからかった覚えがある。うそは絶対に隠せない。楽しいことがあると絶対に笑ってしまう。無理をし ているなって、簡単にわかる。 だから、司が私のことを好いてくれていることもわかっていた。 どうしようか、司もちょっとはいいな、と思ったことはある。でも、あくまで彼とは友達関係のままでありたかった。私に は、司ではなく、別に想い人がいたから。 でも、本当に司がその気になっていたとしたら、私がうそをついて司のことを好きだといったら、彼は冷静になってそ の気でなくなるだろうか。 いや、それはないな。司は一度やると決めたことは絶対にやり遂げる。いや、挑戦し続ける。だから必死になって唐 津洋介(男子8番)を打ち負かそうと思っているだろう。 ああ、司。貴方は、今どういう気持ちなの? パァァンッ!! それは突然起こった。 砂浜だから、何も障害物がないから気がつけたのだろうか。すぐ近くで、銃声がしたような気がした。いや、この期に 及んで幻聴なんか聞こえるはずがない。 一体、誰が撃ったの? 「待て! 動くんじゃねぇ!」 悲鳴と共に、そういった類の甲高い怒号が聞こえてきた。かなり近い。 彩は咄嗟にスカートに差し込んでおいた支給武器のサバイバルナイフを取り出すと、その声がした方向、南の森の方 面へと走っていった。 既に銃声が合計13発響き渡っていた。かなり襲撃者は乱射を続けているようだ。大分装弾数の多い銃らしい。 エリアC=6に差し掛かって、襲撃者の姿が見えた。その向こう側に、危なっかしい足取りで走っている女子生徒の 姿も見える。襲撃者も多分女子だ。一体誰なんだ? パァァンッ!! 「きゃぁぁああっっ!!」 当たった……! 逃げていた女子が、肩から血を吹きながら進行方向に倒れた。襲撃者は足取りを緩め、静かに近づいていく。とどめ を刺すつもりなのかもしれない。 咄嗟に、口が動いた。 「や、やめなさぁい!!」 距離的に10mほどしか離れていなかったため、声が聞こえたのだろう。襲撃者はすぐに振り返って、一発銃弾を放っ た。火薬が爆発する音が、再び当たりに響き渡った。 「きゃっ!」 思わずしりもちをついてしまったが、幸い銃弾は当たらなかったようだ。 そして、襲撃者の正体。恩田弘子(女子4番)だ。ちょっときつめの、ピアスをつけている女の子。冷静な雰囲気を持 つ恩田さんが、なんで? 「辺見さん、よね。貴女、見ちゃったよね?」 「え? いや、ちょっ……」 恩田弘子はゆっくりと近づいてきて、その右手に握られている銃、Cz75をすいっと持ち上げた。 殺される……! 彩は覚悟した。 カチン。。。 「え……?」 空撃ちの音と、呟く恩田。 彩は、自分でもわからないくらい鋭敏に動き出していた。それは、生存本能といえばいいのだろうか。とにかく、『生き たい』という考えが、彼女の俊敏さを生み出したのかもしれない。 気がつけば、サバイバルナイフは恩田弘子の首筋を掻っ切っていた。噴出す血、汚れる制服。 殺すつもりなんてなかったのに、気がついたら無我夢中になっていた。 Cz75の装弾数は15発。先ほど恩田弘子が彩に向けて外した弾が、最後の弾だったのである。 「あ、そうだ……あの子は」 だが、今は自分の行いを心配しているときではない。撃たれた女子生徒を見やるのが先決だ。 そこで苦しんでいる女子生徒を見て、彩は驚いた。 「佐…織……?」 それは、初めてこの学校で友達になった、伊達佐織(女子10番)に他ならなかった。 女子4番 恩田 弘子 死亡 【残り59人】 Prev / Next / Top |