正樹は、黙々と歩いていた。自分にいらだっていた。 この数分の間に連続して起きた出来事、それら全てが、自分に虚無感をことごとく与えてきた。 秋吉快斗はうそつきだ。 何が、自分はやる気ではない、だ。何が、誰も殺さない、だ。そういっている自分自身が、既にクラスメイトを殺してい たなんて、全くばかげている。あいつは、うそつきだ。 正樹は、様々な人と付き合うのが上手だった。それは、もって生まれた性かもしれない。とにかく、正樹は相手の心 を読むのが得意だった。 秋吉快斗がウソをついていることは簡単にわかった。彼は彼女である湾条さんを探しているはずだ。だけど、誰も殺し ていないのなら秋吉君の制限時間は5時間弱。それなら、湾条さんの為にあそこで関本茂を殺して、タイムリミットを 増やして再び捜索に当たるはず。なのに、秋吉君は殺さなかったところか、むしろ悠々としていた。そこで、正樹はお かしいと思ったのだ。 いや、さらに言えば、逆の発想をきかせると、湾条さんも既に誰かを殺している可能性が高い。そうでなければ、どち らにしろタイムリミットは5時間弱なのだから、秋吉君は急がなくてはならないはずなのだ。となると、その可能性は 非常に高い。 くそ。カップルで殺人かよ、おめでたいもんだな。 本当にイライラする。僕はこんな性格じゃないのに。ああ、イライラする。 間違っているんだ、プログラムなんて。他人を殺して生き残るなんて、そんなバカな話があってたまるか。 僕は絶対に政府の考えには従わない、だからといって今すぐここで死ぬわけにはいかないけど、少なくとも僕は絶対 に人を殺さない自信はあるんだ。 そう、武器は、その……あれなんだけどね。 正樹は立ち止まると、ポケットに入れておいた地図を取り出した。コンパスが正しければ、東向き方面に森が見える この場所はH=6、どうやら先程の位置の近くに戻ってきてしまったらしい。かといって戻る気にもならなかったので、 今度はあの森を捜索することにした。確かあの森は島の中でも一番面積が広く、だがまだ一部分しか禁止エリアに なっていないはずだ。あの中に潜んでいる生徒は少なくとも1人はいる。そう、確信した。 正樹は地図とコンパスをポケットに突っ込むと、再び森を目指して歩き始めた。 森に差し掛かろうとしたとき、突然目の前に誰かが飛び出してきた。 唐突に起きたその現象は関本の時のそれと似ていたが、大丈夫、手は震えてはいない。 その飛び出してきた女子生徒は、こちらに気がついていないのか、キョロキョロと見当違いのところを探していた。後 ろで結った髪の毛。楕円形の眼鏡。あれは確か。 「武藤さん」 名前を呼ぶと、少女、武藤雅美(女子29番)はビクッと肩を震わせて、慌ててこちらの方を見た。その手に持っている ものを前に突き出しているものの、ガタガタと震えていた。 正樹は優しく微笑むと、少しだけ遠慮そうに話した。 「大丈夫。僕は戦う気はないよ。だから、武藤さんも、それ、おろしなよ」 そして、彼女が握っているヌンチャクを下ろすように促した。なるほど、ヌンチャクね、そういう武器も一応あるんだな と、正樹は改めて思った。 だが雅美は首を振り、後退りを始めた。よほど自分が怖いのだろうか、何故か半べそをかいているように思えた。 「どうして? 僕は何もしないんだよ? ほら、武器も持ってないじゃないか」 「嫌よ……駄目……無理……」 「無理って……どうしたんだよ? そんなに僕が信用できないのかい?」 何も怖がることなんてないのに。 ……ああ、そうか。つまり。 彼女は、僕を殺そうとしているんだ。 だから、逆に僕も彼女を殺そうとしているって、考えているんだ。 どうだい、秋吉君? これが、普通の考えなんだよ? 正樹が前に一歩進めば進むほど、雅美は一歩ずつ後退した。 「く、来るなぁ! このブオトコ、来るんじゃないよ! ここ、殺しちゃうよあたし……あ、あ、あ、あんたを!」 「どうしたんだよ! 僕は殺さないって何度言ったらわかるんだよ?!」 言ってから、しまったと思った。 こんなにきつく言ってしまったら、逆効果だ。 「殺す……? 嫌だ、殺されたくない……」 「いや、その……違うんだ、武藤さん」 「いやぁぁっっ!!」 突然、雅美は振り向いて森の奥のほうへ駆け出していった。だがそれはあまりにも突然すぎて、正樹には止めること もできなかった。ただ、呆然と突っ立っていたのだが、ふと、秋吉の言葉を思い出す。 『違うんだ!』 嘘だ、秋吉君は人殺しなんだ。僕とは違う存在なんだ。 だから、きっと、偶然殺したなんて……。 そんなこと、あってはならないんだ。 ドゴォォ…………ンッッ!! それは、唐突に鳴り響いていた。 そう、それもかなり近い。この森の中だ。 向かう先は、雅美が逃げていった方面。それは即ち。 「……武藤さん?!」 違う、僕じゃない。 僕のせいじゃ、ないんだ。 だって、勝手に彼女が逃げただけなんだから。 【残り41人 / 爆破対象者33人】 Prev / Next / Top |