全ては、終わった。 2回目の爆発音が起きてから、不思議と辺りは静かになった。鳥の囀りはもう聴こえない。 そんな中、おずおずと遠山正樹(男子19番)は歩いていた。禁止エリアがこの森に存在している以上、これ以上闇雲 に突き進むのは危険だったが、それでも行かないわけにはいかなかった。そう、爆発の原因を調べる為に。 確か、武藤雅美(女子29番)が自分から逃げていった方向はこちらだった筈だ。この辺りは細いながらも獣道が出来 ているから、多分地元の人が山菜でも取りに来るルートなのだろう。多分、慌てて逃げたのだからこの道から外れる ことは無いに違いない。音も、この方向から聞こえてきていたのだ。 茂みを掻き分けながら慎重に歩を進める。爆発が自然に起こる筈なんか無い。きっと、誰かが作為的にやったのだ。 それも、多分、人を殺す為に。 本来ならば危険である以上、そちらに行くべきではないのだ。だが、自分はまだこの島の何処かで生き残っている筈 の(そう、少なくとも2時間前までは)芳賀周造(男子26番)を探している身だ。人がいるとわかった以上、行って確か めないわけには行かないのだ。 本当に、静かだった。 掻き分けた先は、ちょっとした広場のような感じになっていた。僅かだが太陽の日差しが注ぎ込んでいるそこは、まる で21世紀とは感じられない、隔離された世界のように感じられた。 そして、そこには。 「…………ぅっ!」 思わず、胃の中の物が戻ってきそうになった。おびただしい肉片が、辺り一面に飛び散っていたのだ。まだたちこめ ている煙が、爆発の威力が凄まじかったことを示唆している。片足が、もげていた。誰のかもわからないが、脳味噌 がぶちまけられていた。眼球が転がっていた。内臓が、ぐちゃぐちゃになって転がっていた。 そう、まさにそこは、死の世界だった。辺りの雰囲気とはまるでそぐわない、別世界だった。いや、これまでに見た中 でも、一番の酷さだった。 一体、何人の命がここで散っているのか。靴が、転がっている。眼鏡が(そう、多分それは武藤のかけていたものと 似ている)レンズが砕けてフレームだけ名残惜しそうに放置されている。そして、首から上が吹き飛ばされて(首輪で はないだろう。無理矢理、引きちぎられたような感じだった)いる胴体だけの、華奢な女子の死体。少し離れたところ には、また別の女子の遺体が見つかった。 もう、誰なのかも判断できない。顔は一様に潰れ、また既に塊と果てているものもある。つい先程まで、みんなきっと 生きていた筈なのだ。それが、今では。 これで、何人死んだのだろう。残りは、何人なのだろう。 こんなにもクラスメイトが死んでいるのに、まだ自分は生きている。生きて、そして死んだ者達をこの目で見ている。 早々に退場した親友の西村鉄男(男子25番)が、笑っていた。 ほら、お前もこいよ。早くこいよ。どうせ生き残ることなんて考えてないだろ。早いか遅いかの違いなんだ。 だけど、行くわけにはいかない。まだ、死ぬことは出来ない。 決めたんだ。シュウを探すって。それまでは、なんとしても生き残るんだって。 たとえどんな困難があろうとも、僕は必死に生き続ける。頑張って、シュウを探す。 だって、そうでないと、満足できないから。 死んだって、死に切れないから。 頑張れ、僕。 正樹は、軽く黙祷を済ませると、デイパックを担ぎなおして、再び、歩を進めだした。 【残り36人 / 爆破対象者28人】 Prev / Next / Top |