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 砂田利子(女子8番)は、G=5にある小学校の近くを、ふらふらと彷徨っていた。
 何を、一体どうすればいいのか。それさえも理解できず、ただただ足が動くままに、移動していた。


 奈木和之(男子23番)が、島野幸助(男子13番)の死体を引き摺っていた。その時の光景が、唐突にフラッシュバ
ックする。堪えられなくて、利子はしゃがみ込んだ。目を両手で覆うが、視界は塞げなかった。
そう、見ていない筈の光景までもが、鮮明に浮かび上がってくる。島野がいる。奈木がいる。奈木が、マシンガンで島
野を蜂の巣にした。島野が倒れる。鮮血を振り撒きながら、息絶える。


 奈木君が殺した!
 奈木君が、島野君を撃ち殺した!!


想像が膨らんでいく。いや、妄想か。
とにかく、短期間でのショックが多過ぎて、利子の精神は壊れかけていた。
もう、誰を信じればいいのか分からない。兄である砂田利哉(男子14番)は、親友である筈の粕谷 司(男子7番)に
殺された。脱出しようと頑張っていた米原秋奈(女子23番)の努力も揮わず、特別ルールが試行されてしまった。

 わからない。何も、わからない。

力なく、視線も覚束ないまま、ふらふらと歩き続ける利子の足に、何かがぶつかった。突然の出来事で上手く頭が働
かず、そのままコンクリートの地面に倒れこんでしまった。鈍い痛みが、利子を襲う。

「ぅぅ……」

一体なんだろう。痛みに耐えつつ、利子は視線を後方に向けた。
そして、顔が真っ青になった。

「も……り、さん……?」

それは、死体だった。こんな堂々と地面に転がっている死体にも気が付かない程、自分は呆けていたのかという気持
ちが占める反面、ああ、こんなところに死体があるという気持ちも強かった。
そう、叫んだり、出来なかった。ここに死体が一つあるという認識しか、出来なかった。

「…………っ!!」

自然と、涙が出てきた。ここで人が死んでいるからではない。クラスメイトが死んでいるのに、最早何も感じない自分
に対して、自然と怒りが込み上げてきたから。そして、悔しかったから、悲しかったから。
感覚が、麻痺している。死に過ぎだ。もう、一体何人の死体がこの島には転がっているんだ。

「あぁ……!! ぅぁ……!!」

声を出しちゃいけないとわかっているのに、嗚咽が口から漏れ出す。必死に口を塞いでも、しゃくりは止まらない。不
自然に静まり返っている辺りに、自分の嗚咽が響き渡っていた。
森 彩子(女子30番)の死体を後に、再び利子は歩き始めた。今度は、もう、ふらつきはしなかった。ちゃんと、現実
を見据えて、確固とした足取りをしていた。
これから、何処へ行けばいいのだろう。何をすればいいのだろう。もう、自分の周りには誰もいない。誰かの為に自分
を犠牲にするということもどうやら出来そうにない。自然と、運命の時を待つしかなさそうだ。

その時だ。はっと気が付いて、利子は沈んでいた顔を上げた。
思い出した。あたしの武器。あたしの武器は、探知機だった筈だ。他のみんなの居場所が、解る筈なんだ。
スカートのポケットから、それをばっと取り出した。電源を入れて、周囲に誰かいないかを確認する。中央に表示され
ている赤丸で、F−08というもの。それはあたしだ。近くには、同じく赤丸のF−30がある。森さんだ。そして、同じく
近くに、M−15という青丸が表示されていた。


 M−15?
 えっと……誰だろう。


兄の利哉が、14番であることを思い出した。つまり、その次の席。

「あ……」

突然、利子の細い首に、何かが絡みついた。
それが人間の手であることに、ようやく気付いたときには、既に息が出来なくなっていた。



急速に、意識が薄れてゆく。




 利子の後ろでは、関本 茂(男子15番)が、鬼の形相をして利子の首を絞めていた。
 そして、利子の握る探知機には、その他にまだ2つ、赤丸が、ぽつぽつと表示されていた。





   【残り36人 / 爆破対象者28人】



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