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 残り時間は2時間半。
 そろそろ、覚悟しなければならない時間帯。


 新倉友美(女子14番)は、黙々と森の中を歩いていた。地図で言えば、G=7にあたる。
丁度この辺りは太陽の日陰になっていて、もうかなりの高度まで太陽が昇っているにもかかわらず、辺りはじっとりと
していて薄暗い。まるで雨でも降った後のような感じだ。

当然のことながら、彼女はまだ他人を殺めてはいない。
それは即ち正午になった時点での死を意味するし、彼女とて好き好んで死ぬ気にはなれなかった。だが、これまでに
見てきた数々の死体を見ると、果たしていざという時本当に仲の良かったクラスメイトを殺せるのかという疑問が頭の
中を掠める。
いや、実はもう何度もクラスメイトとは遭遇しているのだ。
随分前に名前を呼ばれてしまったが、まず恩田弘子(女子4番)と遭遇した。彼女とは直接話はしていない。その手
に拳銃のようなものが握られていたから、とてもじゃないが話しかける気にはならなかった。
そういえばあの後だっただろうか。割と近くで銃声が聴こえたのは。その後、辺見 彩(女子20番)と伊達佐織(女子
10番)の2人がホテルの中へ駆け込んでいったのを目撃した。伊達さんが血を流していたような気もする。
それだけではない。うろうろと辺りを注意深く見回しながら慎重に歩いていた島野幸助(男子13番)の姿も見た。彼
の名前はまだ呼ばれていないが、どうもいつもの接しやすそうないつもの彼とは違って、異色な雰囲気を感じて、あ
の時は結局話しかけないで終わってしまった。
とにかく、チャンスはいくらでもあったのだ。遭遇したときに一緒に行動しようなどと言えば今頃は一緒にいたのかもし
れない。あるいは、また喧嘩でもして別れるのがオチかもしれない。

そう、ぱったりと、あたしの遭遇率はなくなってしまった。
その時はもう特別ルールが施行されていて、あたしとしては誰かに会いたい気持ちで一杯だった。
もしかしたらあたしはその相手に殺されるかもしれない。だけど、このまま何もしないまま一人ぼっちで最期を迎える
のも嫌な感じがしたのだ。

あれから4時間。間もなくタイムリミットを迎えようとしている今、あたしは多少なりとも焦っていた。
あたしの死が、無駄になってしまいそうで嫌だった。

「誰かいないのかな……」

ふと、独り言を言ってみる。
思えばプログラムに選ばれたときから、あたしは死を確信していたのかもしれない。だって、68人の中から1人を選
び出すというのだ。生存確率は約1.5%……無理に決まっている。
あたしはそんなに友達が多いというわけでもなかったし、女子の中心のグループに所属していたわけでもなかった。
趣味は読書。休み時間はよく図書室で本を読んでいました。ああ、バカバカしい。
普段から友達付き合いをもっと重要視していたら、こういう状況でも信頼関係が成り立ったのかもしれない。だけど、
まぁ仕方ない。こういう状況になってしまった以上、最善を尽くすのが今のあたしの役目といえる。
あたしは休んでいた体を引き起こして、再び歩き始めた。立ち止まっていては時間の浪費だ。一分、一秒たりとも無
駄に出来る時間など無いのだ。

 G=7の山道をゆっくりと歩いていたら、一瞬だが茂みが動いたような気がした。
道の左右は茂みに覆われているような場所だ。隠れ場所としては恐らく最適だろう。風も吹いていないし、多分、誰
かがまだこの辺りで隠れているのだ。
一体何をしているのだろうか。この期に及んで隠れ続けているとは、愚の骨頂。何もしないまま最期を迎えるつもりな
のかはたまた自分は死なないとでも思っている愚か者なのか。
だけど、あたしにとっては好都合だった。誰か、誰でもいいのだ。探している身には。

「……誰か、いるの?」

そっと、尋ねかけた。
辺りは妙に静まっていて、小鳥のさえずりでさえ聴こえない。風もない。何も聴こえない。

「ねぇ、誰かいるんでしょ? 返事をしたらどうなの?」

返事は来ない。
代わりに、一瞬だけだが、再び右側面の茂みがガサリと音を立てた。逃げようとしているのだ。

「誰? あたし、やる気じゃないから。出ておいで」

その一瞬の音を頼りに、あたしはその目標物へと歩を進めた。
これでも耳はいいほうなのだ。視力も2.0あるし、勉強が出来ない分こういう分野は得意だった。

「怖くないから。出てきなさいよ」

ガサガサと茂みが大きく揺れる。もう、位置は完全に割れた。目の前の茂みの奥、向かって左側の方に、その人物
は潜んでいるのだ。決して猫なんかではない。この大きさは人間だ。
……いや、熊ではないだろう。

「えっと……聴こえてるの?」

 その時だ。
 突然、茂みが割れて、そこから一人の人物が立ち上がって姿を現した。

「うあぁぁぁああっっ!!」



 バァンッ!



 GM FP45・リベレーター。装弾数たったの一発というなんとも情けない拳銃が、その両手から吐き出された。

「え……?」

 そのたった一発の弾は、あたしの右肩肩甲骨を、貫いた。
 一瞬遅れて、激しい痛みがあたしを襲う。

「あぅ……うわぁぁ!!」

 そのあたしの叫び声を、撃った張本人、星野香織(女子22番)は、黙ってみていた。




   【残り27人 / 爆破対象者16人】



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