A=5、矢代港。 放送が終わってから暫くの間。やはり、先に口を開いたのは相手だった。 「残り11人……だな」 「…………」 永野優治(男子22番)の言葉に、峰村厚志(男子31番)は何も答えない。 わざと無視をしたわけではない。返事が、出来なかったのだ。いや、喋ることさえ、ままならない状況だった。 それだけ、精神的なショックは大きかった。 「みんな……人殺し、か。びっくりするよな。俺たちも、その中に含まれているんだぜ……」 「…………」 今、この島で生き残っている生徒の数は僅か11人。その全員が、誰かしら、クラスメイトを一人以上殺害している のだ。勿論、自分たちだって例外ではない。厚志は堀 達也(男子29番)を殺し、優治は行動を共にしていた親友で ある原 尚貴(男子27番)を手にかけているのだ。この放送の時点で生き残る条件は、二人ともこなしていた。 この放送の時間までに、一人以上殺さないと首輪が爆発する。こんなとんでもないルールが何故突然追加されたの かはわからない。だが、実際に砂田利子(女子8番)は規約違反の為に首輪を爆破させたと、あの道澤とかいう教官 は放送で話していた。しかし……たった一人だけだ。その他に死んでいった34人のクラスメイト達は、即ち今生き残 っている他の連中に殺されたことにままならない。 「峰村。喋れよ」 「………あぁ」 促されるままに、曖昧に、そしておぼろげに返事をする。優治は強い男だ。こんな時でも冷静に判断して、何をする べきなのかをきちんと心得ている。それに対して、自分はなんて無力なのだろうか。親友に襲われて、何も出来ずに 逃げ出して、沢山のクラスメイトの死体に出会って、そして、自分も加害者になって。 「お前、そんな調子だと、死ぬぞ」 唐突にそんなことを言われて、厚志ははっとした。 そっと優治の顔を見る。その顔から、怒りが感じ取れた。 「死ぬぞ」 再度、優治が言う。厚志はうなだれて、そして頷いた。 駄目だ、このままじゃいけない。まだ、ゲームは終わってなんかいない。むしろ、本番はここからなのだ。いかに生 き残るか、それが問題だ。 「いいか、峰村。俺達は、他のクラスメイト達の犠牲の上で生き残っている。そう易々と、死ぬわけにはいかないんだ」 「……そうだな。いつまでもこのまま、てわけにもいかなそうだしな」 原の死が、堀の死が、今この場に居る2人の命を繋いでいる。なのに簡単に死んでしまったら、天国で2人になんと 言い訳すればいいのだろうか。簡単に砕け散るわけには、いかなかった。 優治が、再び地図を取り出した。 「生き残っている11人。その中には、勿論俺達みたいに、仕方無しにクラスメイトを殺してしまった奴等だっている。そ う考えるのが自然だ。まずは、そいつらと信頼関係を築いておかなくちゃならない。本当はやる気なんかじゃないっ て、信じてもらわなきゃならない。……峰村、誰がそうだと思う?」 地図と一緒に印刷されている名簿。そこには大量の斜線がひいてあり、だがそれでも、いくつかの名前は存在してい る。数にして11人。本当に、少ない。そこに書かれている名前を見て、そして考える。 「……まだ生き残っているのはみんな人殺しだ。だけど、こいつが積極的に人を殺すとは思えない。そういう人物を見 つけ出すということなら……まず、秋吉」 「秋吉か」 名簿の一番初めに書かれたその名。まだ、斜線はひかれていない。 「秋吉……それから粕谷、奈木、女子なら辺見と湾条。俺は、こいつらは積極的に殺しまわっているとは考えなれな いんだ」 「確かに、こいつらはそういう性格には思えないな。まぁ、唐津や朝見、長谷、辻あたりはやる気になっていてもおか しくない」 5人。自分達を除いて、信用出来るクラスメイトは、たったの5人だ。 しかも、残りは勝手にやる気になっていると決め付けてしまっている。しかし、仕方のないことなのだ。この状況下、 信じられる要素が一つでも欠けている生徒は、どんどん対象外にしたほうがいい。 「こいつらに出会ったら……」 「信用しても構わない、か。けど、残りは……」 「やり過ごせる、のか?」 優治と、顔を合わせる。もしも後半の人物と出くわしてしまった場合、相手がやる気になっている可能性が在る以上、 まんまと逃げ出せるとは考えにくい。確かにやる気になっていた友部元道(男子20番)から逃げ出すときは、支給武 器である発炎筒の助けがあったから簡単に逃げることは出来たが、今の自分たちの持ち合わせではどうすることも出 来そうにない。 「やるしか……ないだろう」 覚悟が、いる。 この港が1時間後の禁止エリアに指定されてしまった以上、これ以上長居するわけにはいかないのだ。 その時だった。 「峰村。あれ」 優治が、突然窓の外を指差していた。 厚志は、そっと窓の外を窺う。 そこには、誰かが、いた。 「制服じゃない」 そう、この島には3年A組しかいない筈なのに、その人物は制服じゃなかった。 あいつは、誰だ。 【残り11人】 PREV / TOP / NEXT |