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 目の前に横たわる奈木の死体。
 頭をぶっ放したのだ。当然、生きている筈もない。


  ……痛かった。


 それは、防弾チョッキを着ているとはいえ、マシンガンから吐き出された弾の衝撃は防げなかったから。
 そして……和之には、理解して貰えなかったから。


「和之……僕は、さ。……怖いんだよ」


 これまでに、自分が殺したわけではない死体をいくつも見てきた。その中に、牛尾 悠(男子4番)の死体もあった。
彼の死体は不自然だった。致命傷となったのは間違いなく頭部への銃弾だが、それ以外に傷が見当たらない。にも
関わらず、外側の制服はボロボロになっていたためだ。
横に転がっていたデイパックをあさる。加害者は食料などを根こそぎ持っていったようだ。だが、懐中電灯の下に貼り
付いていたその紙を、司は見逃さなかった。


 『防弾チョッキ』
  ―― 銃弾は防げても衝撃は伝わってくるので取り扱いに注意。


稚拙な文字でそう書かれていた。なるほど、こいつに支給されたのは防弾チョッキだったのか。それなら、その不可
思議な現象を充分に説明できた。
そして、奇跡を信じて。そっと、司は牛尾悠の死体を調べた。

 ……あった。

加害者はそこまで考えていなかったらしい。あるいはとどめしかさしていなかったのか。防弾チョッキの存在に気付く
ことなく、その場を去ってしまったのだ。勿体無いと思うが、同時にありがたいとも思った。
大分前に放送で牛尾の名前は呼ばれている。当然死後硬直も始まっていて、チョッキを脱がすのは一苦労だった。
だが、なんとかやってのけた。死体が着ていた服を着るという行為もかなり抵抗があったが、それもなんとか克服し
た。全ては、この先生き残る為だ。

 そしてそのお陰で、自分は今生きている。もしもこのチョッキがなければ、和之によって命をもぎ取られていたに違
いない。そう、大切な親友である筈の、和之に。
彼は、理解してくれなかった。まぁ、神経芽細胞腫というらしい病気の存在は告げていなかったし、それを知っていた
としても彼は優しいから、そんなことは関係無しに自分を非難するとは思っていた。

 だけど、まさか。……マシンガンで、撃ち殺そうとするとはね。

プログラムは人を変えると言う。確かに、普段付き合っているクラスメイトの本性を知るには充分なのかもしれない。
困るのは、発狂して普段の性格が崩壊してしまう者を相手にするときだ。そう、坂本理沙(女子7番)や成田玲子(女
子13番)のように。
残念ながら自分は違う。いつも通りに行動しているし、いつも通りに話している。どこも、おかしくなんかない。


 ……いや、充分狂っているじゃないか。
 唐津洋介(男子8番)に、デスゲームを申し込んだ時点から、恐らく僕は。


今この時間が楽しい。この瞬間、唐津と競い合っているという事実が楽しい。最後の、唐津との競演。キルスコアを競
い合うという、狂演が。
唐津は頑張ってくれた。あいつに勝つことだけが、今の自分の目標だった。なんとしても死ぬ前に、あいつに勝ちた
かった。どんなものでもいい、勝ちたかった。ただそれが、プログラムという状況下においてこの狂演を開催させた、た
だそれだけのことだ。
負けるわけにはいかない。だが、そう簡単に終わらせるわけにもいかない。
時間は、もうないのだ。時が進めば進むほど、やがて本当の決着が始まる。僕と、唐津の、殺し合いが。

 それじゃ、つまらないじゃないか。
 これはゲームだ。命を懸けた遊びなんだ。

 ゲームである以上ユーモアが要求されるし、遊びである以上遊戯感情が求められる。


 そうだね、和之。
 君の願いを、特別に叶えてあげよう。親友だからね。


 秋吉快斗(男子1番)は殺さない。
 湾条恵美(女子34番)も殺さない。


 2人が仲良く合流できるまで、見守ってやろうじゃないか。
 そして、再会を喜び合っているときに、その幸せの絶頂の時に、命をもぎ取る。なんて至福なんだろうか。
 2人とも、何が起きたかわからないまま死ぬんだ。喜びながら死ぬんだ。それこそが、本当の幸せ。


 マシンガンはデイパックにしまう。これは、多分……使わない。
そして、さらに見つけた武器。誰の物なのだろうか、ディスプレイの中央にM-07という表示。そのすぐ下には、別の色
F-34と表示されていた。程なくして、これが探知機であると悟る。

「ふぅん、ナルホドね」

M-07は男子7番、つまり司自身だ。それから、ここに表示されているF-34、即ち女子34番。





 ……女子、34番。





 司は、そっと振り返る。


 小柄な体。シンボルの赤いヘアバンド。気の強そうな、だが優しい眼。
 湾条、恵美。





 彼女が、そこに……いた。





  【残り7人】





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