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“えー……と、それから22番 永野優治、23番 奈木和之。それから女子は唯一人、1番 朝見由美。以上4名”


 朝見の名前が呼ばれた瞬間に恵美の顔色が強張ったのは、確認できたが……認識できなかった。
 たった一人のクラスメイトの死が。こんなにも、重たく……冷たくのしかかる。

「唐津……」


“続けて禁止エリアの発表ね。午後7時からG=10、9時からF=1、11時からC=4がそれぞれ禁止エリアに設定
 されるので……まぁもうわかってるわよね”


 それでも……たとえ頭の中がこんがらがっていても、体は放送にきちんと反応していた。地図とペンを取り出し、勝
手に手が動き出して書き記している。とはいえ、辺境ばかりが指定され、注意しなければならないのは商店街の一
部が含まれているC=4程度なものだ。最早このあたりには誰もいないだろう。


“んーと、ね……とりあえず、残り7人です。この中の一人だけが、生きて帰られます。だから、まぁ……その、頑張っ
 て欲しい……かな。じゃあ、最後に一つだけ。ある人へのメッセージ……です”


 放送の主である教官の道澤もなぜか声が鬱となっている。
 なにかあったのかもしれないが、そんなことはどうでもいいのだ、もう。




“唐津洋介の殺害生徒数は、最終的には8人でした”




 顔を、上げた。
 これは誰へのメッセージなのだ? ……いや、聞くまでもないだろう。



  こ れ は 、 僕 の 為 の メ ッ セ ー ジ な ん だ 。



 道澤は知っていたのだ。
 僕が唐津とキルスコアを争っていることを。そして、互いに互いを敵視していることを。

  ……だが、どうやって?

 会話を盗み聞きしていたとしか思えない。けれど、そんなにジャストポイントに僕と唐津の会話を盗聴器で聞き取れ
るのだろうか。68人もいるのだ、不穏な行動を阻止する為とはいえ、この広さの島だ。大量に取り付けた盗聴器でそ
こまで精確に聞きだせるか。

 と、ここまで来て、なんだと鼻で笑った。


「首輪、か」


 そう、簡単な話だ。首輪には盗聴器が付けられているのだ。いや、それだけではない。もしかしたらビデオカメラだっ
て取り付けられているのかもしれない。とにかく、こんな単純な方法で、情報を掴み取ったのだ。
それに、唐津は恐らくトトカルチョでは間違いなくトップだ。その生徒の動きは常に監視されているに違いない。なるほ
ど、つまり本部の方々は僕達の命がけの戦いを高見の見物と来ていたわけだ。


“そう、ね……うん、じゃあ今回の放送はここまで。また次があるとしたら……お元気で”


 そして、恐らく現在監視されているのは僕だ。唐津の死を知らされてどのような反応をするのかが知りたいに違いな
い。案の定、僕の言葉を肯定して、ブツンという音と共に放送は切れてしまったのだった。
そして僕の方も本部の、いや道澤教官の意思は充分に受け取った。つまり彼らの言い分はこうだ。


  唐津が死亡してしまい、プログラムの進行に支障をきたす恐れがある。
  だから粕谷、お前が頑張って他の生徒を殺せ。奈木の約束なんか律儀に守るな。


こういうことだろう。こうもわかりやすく伝えられてしまうと、逆に反抗したくなる。
僕は奈木の約束を守ると決めた。自分で決めた以上、最後までそれは守るべきだ。いちいち本部に指摘される筋合
いなんかない。
だけど……唐津は死んだ。キルスコアは8だ。そして……僕のスコアは現在7人。


 あと、2人だ。

 その時点で長く生きていた僕の勝ちだ。あと2人殺せば、やっと唐津に勝てるんだ。
 僕と恵美と快斗の3人を除けば、残りは4人。そのうちの2人、なかなか厳しいじゃないか。

 だが、それでこそやりがいがあるというもの。
 そこまで苦労しないと、唐津には勝てた気分にはなれないだろう。



  そして、大きく深呼吸をする。



 横を見る。恵美も、呆然とした顔をして、黙って地図を握り締めていた。
 意を決して、僕は喋りだす。



 恵美を、信じて。






「恵美。……話が、あるんだ」






  【残り7人】





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