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 もうあれは何度目の放送になるのだろう。
 途中までは数えていたけれども、今ではそんなことに興味がない。数えても、虚しくなるだけだ。


「恵美……」


 秋吉快斗(男子1番)は顔を上げた。
手元にはびっちりと斜線が引かれた紙。無論、地図と共に印刷された名簿である。沢山の名前の上に、それと同じ
数だけ斜線が引いてある。だが、まだ湾条恵美(女子34番)の名前は、綺麗に残っていた。

 残りは、7人。

流石にそろそろ出会ってもいいのではないか、そう思い始めてもいい頃だ。
日本刀『菊一文字』は常に持っている。いつ、どこで、誰が出てくるかわからないこの状況だ。油断もままならない状
況下での人探し、これほど精神力をすり減らす行為が他にあるだろうか。

 恵美がまだ生き残っているとわかったときは、安心できた。
だが、その彼女と遭遇したと言っていたあの朝見由美(女子1番)が死に、そして会えるのなら会いたいと願っていた
親友の奈木和之(男子23番)も死に、そして……間違いなく優勝候補だと(俺自身が)思っていた唐津洋介(男子8
番)の名前も呼ばれてしまった。
みんな、強い奴らばかりだ。なのに、死んでいる。恵美はどうだ? そんな面子に囲まれて、果たして充分に太刀打
ちできるのか? 一度ならまだしも、二度三度と行くにつれて体力的に駄目になってしまうに決まっている。そうなる
と、必然的に待っているのは。

 だから、早く探さなければならないんだ。


 俺が恵美を守る。
 必ず、守りきってみせる。


 だけど……それで、どうなる?


前々から思っていたことなのだ。俺と恵美の二人で頑張って生き残る。すると、最終的にはこの島には二人だけにな
ってしまう。どちらかが倒れるまで、この殺人ゲームは続くのだ。それでなくとも、24時間ルールは迫っているのだ。
その間に決断しなければならないとは、なんとも短すぎやしないか。
まだ少し前……恵美と二人で居たときなら、まだ考えるのは早いと思っていた。だけど、今、残り7人となったこの現
状を見て、最早それは机上の空論ではなく、確実に目の前に迫りつつある現実となっている。先延ばし先延ばしにし
て、締め切りに間に合わなくなってしまうことはなによりも恐ろしいことだ。


 だけど……現実を突きつけられても、だ。
 今は、待ってくれないか、神様とやら。


どんなに目前に迫っていても。
大切なのはまず第一に恵美と合流することなのだ。もしもこの俺が物語の主人公なら、こういうシチュエーションの場
合は最後の最後で必ずヒロイン、つまり恵美と合流できることになっている。苦労すればするほど、遭遇シーンは観
客号泣の大盛り上がりだ。

 ……まぁ、実際には現実はそうは甘くないことくらい知っている。

だけど、よくあるじゃないか。想い人が行方不明になったとき、必ず見つけだす場所は二人の思い出の場所だって。
恵美だって、そういうことくらいは知っているはずだ。むしろ今の今までそのことに気付かなかった俺に対して怒りを覚
えるくらいだ。なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ。
そうさ、あの別れるときに、一言、恵美にどこそこで合流しようって言えばよかったんだ。そんなことも思いつかなかっ
ただなんて、余程の馬鹿だな、俺は。

 というわけで、思い出の場所の目の前に俺はいる。
 決していい思い出とは言えないかも知れない。だけど、とても印象に残っている場所なんだ。


 G=4、民家。

 俺が、福本五月(女子19番)を殺害した場所。


意を決して、扉を開ける。土足で家の中を歩き回るが、当然ながら何も見つからない。恵美の書置きもなければ、誰
かがそこで横たわって寝ているといった状況も用意されてはいない。全く変わっていない、そんな印象を受けた。
やはり現実はそう甘くはいかない、そう思いながら、再び外へ出たときだ。

 そこに、誰かが転がっていた。

いや……最早説明するまでもないだろう。死体だ。
福本の死体に割りと近いその場所に、あの唐津が横たわって死んでいた。

 状況が、理解できなかった。

唐津は恵美と朝見を襲っていた筈だ。そして、朝見は逃げ切って俺の前に現れた。
なら、ここにいる唐津は誰と戦ったのだ?


 脳裏を掠める、一本の糸。


最有力候補は、間違いなく恵美だ。
よく知っているこの場所に逃げ込んで、そして再び唐津に襲われて……いや、唐津はこの福本の死体に気を取られ
たのかもしれない。とにかく、その隙に……殺した、のか?
そんな芸当が果たして恵美に出来るのだろうか。あるいは別の生き残っている生徒がこれをやった、そう考えてもお
かしくないのではないか。そうだ、あくまで恵美がやったという可能性が他の生徒より若干高いだけであって、別段変
わりはない……そうだ、そうに違いない。


 ……想像できないんだ。
 恵美が、誰かクラスメイトを殺しているシーンを。


 わかってるんだ。この時点で生き残っている。それが何を意味するのかは。
 だけど、信じられない。恵美が凶器を振り回して、クラスメイトを殺しまわっている姿なんて。


俺とはぐれてからの恵美の行動は一切わからない。
だが、これだけは断言できる。


 恵美は、決して絶望なんかしない。
 絶対に、精神崩壊なんてしてない。


恵美は毅い女だ。きっと、俺が信じているよりもずっと、ずっと。
彼女は負けない。絶対に、どんなことにも。




 そう、今だって生きている。絶対に生きていて、俺の事を探している。

 だからそれを信じて……俺も恵美を探し続ける。必ず、見つけ出してやる。





 だから……教えてくれ。





「恵美……」




 お前は、今……何処にいるんだ。







  【残り7人】





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