思えば沢山のクラスメイトを斬った。 日本刀『村正』を私にくれた哀れな犠牲者である政岡 愛(女子26番)を筆頭に、斧で襲い掛かってきた愚かな寓話 者の谷 秀和(男子18番)、果敢にも竹刀如きで立ち向かった無謀な名倉 大(男子24番)、何も出来ずに散った可 哀想な根岸久美子(女子15番)、鶴のような綺麗な顔をしておきながら、聴くに堪えない奇声を上げて死んだ星野香 織(女子22番)、気付いたときには手遅れで、最後は笑いながら斬り殺された新倉友美(女子14番)、フェンシング 対剣道という異種競技の舞台を用意してくれて、そして私の右手を使い物にならなくした素晴らしき英魂の持ち主で ある永野優治(男子22番)、最後に……その陰役者として、よき引き立て役を演じた挙句、私を悪魔呼ばわりし、そ の悪魔によって四肢をもがれ首をとられた勇者、朝見由美(女子1番)。 以上、8人。 どの子もみんな個性的で、そして私を満足させてくれた。 しかも、後半に行けば行くほど難易度が高くなっている。素晴らしいことだ。 「あーあ、綺麗な夜空ね」 背伸びをする。見上げればそこには満天の星。今日は雲ひとつない快晴だ。流石南の島。まだ一月だというのに充 分暖かい。……いや、それは違うか。それは私が興奮しているからだ。念願の、人を斬るという行為の達成に満足し ているからだ。 いや……それも違う。まだ、満足なんかしていない。 まだ私は生きているじゃないか。生きている限り、誰かがこの島に生存している限り、そいつを斬りに行くのが私の使 命というものだ。そして、最後は潔くやられる。それが、私の運命なのだから。 時の流れは早い。楽しければ楽しいほど、その時間は早々に過ぎ去っていくものだ。 あの放送の時から既に3時間が経過し、指定された禁止エリアがまた一つ増えていた。 もしも……もしもの話。 私が物語の主人公と敵対する悪役なら、思い切り憎まれ役にならなくてはならないだろう。非常の精神を持ち合わせ て、クラスメイトを次々と手にかけていく。それを止めようとした果敢な有志達も、次々とその悪魔の前に倒れていく。 そして……最後に戦うのは物語の主人公だ。私は主人公と戦う。あっさりと負けたりなんかしない。必死に抵抗して 主人公を圧倒し、追い詰めていく。主人公が絶体絶命のピンチとなったその時……何かが起こるのだ。そして、その イベントによって主人公は力を増して、私を打ち破る。そして……この状況下で言えば優勝ね。その子は無事プログ ラムの68人の中の頂点に立って、これからも生き続けるの。だけど、永遠に私の存在を忘れることはないの。なんて ったって、私は悪魔であり、ラスボスであり、主人公を死の恐怖へと陥れようとした存在なのだから。 そうね……もっと欲を言ってしまえば、私は悲劇の敵役ということになれるわね。私は生き残るつもりなんか毛頭な い。周りの人間からすれば変な人間だろう。こんだけの人数を斬り殺しておきながら、生き残る気がないなんて、なん て贅沢だと思われても仕方のないことなのかもしれない。だからこそ、主人公だって不思議に思うでしょう、この私と いう存在を。そして、私は自身の不遇を語るの。そして……主人公を精神的に揺さぶりながらもやられるの。そうすれ ば、主人公だって余韻を残しながらエンディングを迎えるじゃない。 ……まぁ、現実はそう甘くはないのでしょうけれど。 少し電波が入ったかもしれないわね。でも、なかなか面白いストーリーだと思わない? 実際にはこんな物語はどうでもいいの。ただ、私はいつかは死ぬ。このプログラムの途中で死ぬ。その事実さえ作り 出せれば、あとはどうなろうとしったこっちゃない。 問題は結果であって、その課程ではないのだから。 ただ、あまりにもあっけなく殺されるのも嫌だ。そういう点では、銃撃戦を一度も体験していないのは相当においしい 役なのかもしれない。もともとそういった野蛮な武器には興味がないし、銃を積極的に撃ちたいとも思えない。ただ一 つ、撃つときが来るのだとしたら、それはこちらの戦闘を邪魔されたときに他ならないだろう。勝負は常に一対一。そ れで正々堂々と戦って負けたのなら、私だって快く死ねる。それが集団リンチで死んでしまおうものなら、成仏できな いに決まっているじゃないか。そのための制裁措置として、このリベレーターを持ち合わせている。銃弾はたったの一 発しか装着できないけれども、それだけでも十分だ。鳩の群れの中にBB弾を撃ち込んだら、雲の子を散らすようにみ んな一斉に飛び立つでしょ。 そう、だから私の理想は刀と刀で行う、『死合』だ。 出来れば相手は秋吉君がいいな。彼は確か居合道をやっていたから、真剣には私よりも長けている筈だ。 あーあ、秋吉君が都合よく日本刀でも持っていればいいのにな。 そうすれば、主人公は間違いなく彼だ。そして、物語が上手く進めば優勝者も彼ね。 ……なんて、そう都合よくいく筈もない、か。 望みなんか叶わなくて当たり前なのだから。現実は甘くないんだってば。 ただ……そうね、私が一つだけ望むとするなら。 二度と元の生活には、戻りたくない……ということに、なるのかしら? 【残り7人】 PREV / TOP / NEXT |